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繁華街の盛衰――営業活動の自由(第9回)

学習院大学名誉教授 戸松秀典

1 閉店と開店

 私は、定年退職後に、散歩の習慣を身に着けました。大学に勤務していたときは、担当授業や会議出席のためだけでなく、研究や原稿執筆のためにも、研究室に毎日のように通っていました。その往復においては、電車を利用することが多く、その際、エスカレーターやエレベーターを避けて階段を歩くことにしていたため、毎日の歩数はおのずから目標値を超えておりました。しかし、そうした通勤のための歩行がなくなると、代替方法が必要となり、本欄で示しているように、散歩を日課とするようにしています。この変化がもととなって、以前にはそれほど気にしていなかった繁華街における閉店や開店に対してかなり注意するようになっております。

 まず、散歩をしていると、見慣れていた店の入り口に閉店の貼り紙をときどき目にします。それは、店の経営者が高齢のため維持できなくなった、店が古くなったので建て直す、ビルを新築するため立ち退く、近辺に量販店ができ個人商店では対抗できなくなった、といったようにさまざまなことが原因となっているようです。そのためか、閉店表示を目にすると、何だかさみしい気持ちになりがちです。これに対して、新しく開店する店の前を通ると、新鮮さ、華やかさ、活気などといったプラスの雰囲気を感じることが多いので、けっこうな思いをしながら通りすぎ、次の機会には、繁盛しているか、客がよく入っているかなどと興味が抱きます。そして、そうした閉店と開店が生み出す現象について、考えをめぐらしております。

 たとえば、もう10年余り前に、地方の町で目撃したシャッター街の光景とは違う事態ではないかと考えます。かつて見た商店街の衰退とは違い、こちらでは、従来とは異なる強力な営業店が台頭して、それに対抗できない商店が撤退しているのです。昔ながらの個人商店は、八百屋、魚屋、肉屋、乾物屋といった私の子どもの頃には馴染みであった営業を今日では続けられず、いわゆるスーパーや量販店が街の中で市場を支配していることは、ここで記すまでもないでしょう。人口の過疎化による現象と、私の住む世田谷で生じている閉店・開店の現象とは、共通点があるようで異なっているのではないかと考えさせられます。

2 営業活動の自由

 このような考えをめぐらすとき、このコラムの主題に結びつくこととなります。すなわち、散歩で見る繁華街の盛衰は、国の法秩序すなわち憲法秩序においてどのようにとらえられるかということです。それは、一言でいえば、営業活動の自由(注1)の問題です。

(注1)憲法22条1項は、職業選択の自由を保障していますが、そこには、営業活動の自由(単に「営業の自由」とも呼ぶ)も含まれるとされています。

 営業活動の自由といっても、その内容は、まことに多彩で、社会での人々の継続的営利行為の大半をとらえることになり、ここでその様相を示すことは容易ではありません。しかし、日常、上記のように散歩の途上で見る閉店・開店の動向も、営業活動の自由の一端を実際に表しております。したがって、ここでその全体像を整理して説明しなくとも、この自由の具体的イメージは、容易にとらえることができます。そして、憲法で保障されている自由ですから、営利的行為は、個人や会社の能力と相互のやりとりに任せ、国家が介入しないということになっております。つまり、閉店・開店が自由な競争のもとに展開されているわけです。

 ただし、以前にもふれたように(第6回第7回)、自由には規律が伴います。営業活動の自由も、憲法22条1項でのことばを使うと、「公共の福祉に反しない限り」という制約があります。しかし、私の散歩中でみた閉店は、公共の福祉に反したから営業活動を止めたわけではありません。閉店とせざるをえない理由は、上記のような事情のようですが、それらは公共の福祉に反したこととは関係ありません。たとえば、第7回で登場したパチンコ店は、最近閉店となり、建物が解体されて、新ビルが建築中ですが、どうやら経営上の理由のようで、不健全な経済活動であったことを理由に自治体から閉鎖を命じられたわけはないといえます。それは、そこから数軒先には、規模は小さいもののパチンコ店の経営が続いていることから明らかです。

 営業活動の自由に公共の福祉に反してはならないとの制約があるといっても、これも多彩な活動の内容や形態との関連があり、それについての説明を簡単にすることは不可能です。しかし、その制約の具体的内容(注2)は、法律や条例によって定められており、その制定権限をもつ国会議員や地方議会議員の果たす役割が重要となります。はたして、議員たちはその役割をしっかり果たしているか、注目する必要があります。

(注2)制約というから、それは、営業活動が制限されることだと一応いえます。しかし、国や自治体による制約といっても、ある事業者の営業活動を制限することによって、競合する他の事業者の活動を援助したり、保護したりすることもあり、単純でないということを指摘しておきます。

3 多種・多様さと変化への対応

 散歩から帰った後、考えていることは、閉店と開店が生み出す繁華街の盛衰には、従来とは異なる、あるいは従来の考えでは処理できない新しい問題が存在しているということです。

 第一にあげるべきは、高齢化がもたらしている問題です。散歩の後、いつも頭に残っている印象は、高齢者が力なく歩いている姿です。近くのスーパーやコンビニで買ったと思われる食糧の入ったレジ袋を手にさげて、ややうつむき加減に、杖をついている人もいれば、シルバーカーを押して足を運んでいる姿もあります。若い頃のように生活用品を近辺の店で手に入れることができず、かなり歩いてスーパーに行かねばならないのです。そこで、比較的近辺にあるコンビニ店が、高齢者に便利なように野菜や食料を置くようになっているのは、結構なことだとみています。また、過疎化の進む地方では、昔ながらの店の代替として、車に日用品を積載した移動式コンビニが活躍しているとのニュースを見ています。これは、閉店・開店の新たな展開だといえます。

 次に、デジタル化やコンピュータ化が営業活動に著しい変化をもたらしていることに注目しています。たとえば、散歩中に、書店が姿を消してしまっていることを知り、悲しい思いをしていますが、これは、書籍の購入にはネット販売が影響しているためだと聞かされました。そのようなことは、他の様々な商品について生じていて、店に品物を置いて手に取って購入してもらう営業方式が次第に消えていく傾向にあります。あるいは、スマホをもって入店すれば、欲しい品を棚から取り、籠にいれるだけで、支払い手続きが済むので、店員の営業活動も姿を消していくそうです。この方式は、日本ではまだ進んでいないようですが、予めそれに対応できる法制度を整えておかなくて大丈夫なのか気になります。

 他にもあげるべき問題がありますが、営業活動にかかる大きな変化に対して、法制度の整備がしっかりなされないと、営業活動の自由は、国法秩序の中で憲法により保障されているといっても、その実態がむなしいものとなる恐れがあります。

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■著者プロフィール


tomatsu_pf.png 戸松 秀典 憲法学者。学習院大学名誉教授。

1976年、東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了(法学博士)。新・旧司法試験委員、最高裁判所一般規則制定諮問委員会委員、下級裁判所裁判官指名諮問委員会委員、法制審議会委員等を歴任。

●著書等
『プレップ憲法(第4版)』(弘文堂、2016年)、『憲法』(弘文堂、2015年)、『憲法判例(第7版)』(有斐閣、2014年)、『論点体系 判例憲法1~3 ~裁判に憲法を活かすために~』(共編著、第一法規、2013年)、『憲法訴訟 第2版』(有斐閣、2008年)など著書論文多数。

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