『広辞苑』は大型辞書だと思っている人がいるかもしれないが、そうではない。小学館から発行された『日本国語大辞典』第二版全十三巻(十四巻は索引などで除く)が、最大規模の国語辞典である。収録語数は60万を超える。『広辞苑』は約25万だから中型辞書だ。ごく一般の国語辞典は6~9万で小型辞書ということになる。
このような説明は本書『『日本国語大辞典』をよむ』(三省堂)を読んで、知った。2万ページに及ぶ『日本国語大辞典』をなぜ著者の今野真二さん(清泉女子大学教授)は、読破しようと思ったのか?
『そして、僕はOEDを読んだ』(三省堂)という本があるそうだ。『The Oxford English Dictionary』二十巻約2万ページを1年かけて読み通したアモン・シェイという人が書いたことを「はじめに」で紹介しているから、対抗心もあるようだ。これまでに『辞書からみた日本語の歴史』、『辞書をよむ』、『超明解! 国語辞典』など、辞書をよむことをテーマに本を出している著者は、勤務先の大学から1年間の「特別研究期間」を認めてもらったのを機会に、この「暴挙」に挑戦した。
メモをとりながら「あ」から始めた訳だが、本書では第1章で凡例、第2章で見出し、第3章で語釈、第4章で使用例、第5章で出典、第6章で辞書欄・表記欄とテーマごとに書いている。見出しとなっている語句についての感想をコラム風に書いた文章が面白い。
たとえば、さまざまな「あだ名」が日本語にある。おわかりだろうか。
1 じゃのすけ【蛇之助】 大酒飲みを人名のように表現した語。 2 たんばたろう【丹波太郎】 陰暦六月頃に丹波方面の西空に出る雨雲を京阪地方でいう語。この雲が現れると夕立が降るという。 3 にゅうばいたろう【入梅太郎】 梅雨にはいった最初の日をいう。梅雨期の一日め。
『日本国語大辞典』は俗語や隠語も見出しにしている。こんな例も。
おか (「かお」を逆にした語)顔をいう、人形浄瑠璃社会および盗人・てきや仲間の隠語。 かやましい (「やかましい」の「やか」を逆にしたもの)官吏、役人などの監督が厳格である、という意を表わす、てきや・盗人仲間の隠語。
著者は一日平均25ページくらいを読んだというから、かなりの速度だ。読み始める前は、読んだら自分がどうなるか、予想がつかなかったそうだ。いまは何か「感覚」が残っているという。「自身の知っている日本語のバランスが少しよくなった、というような感覚かもしれない」と書いている。
『新明解国語辞典』の編集主幹を務めた山田忠雄が伯父で、大学の国語学演習の課題について「ずる」をして教えてもらったエピソードを明かしている。国語学者や国語辞典の編集者は一族をなしている例も少なくない。辞典つくりには長い時間がかかるということだろうか。
本書は読み物というよりも、『日本国語大辞典』のマニュアルとして読んだ方がいいかもしれない。第二版にはオンライン版もあり、検索機能などの便利さについても言及している。第三版が紙の辞典として刊行されることはあるのだろうか? そんなことも考えさせられた。
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