本を知る。本で知る。

「大活字本」から「知らない世界」が見えてきた

持たない暮らし

 本書『持たない暮らし』は人気エッセイスト下重暁子さんが、余分に物を持たないシンプルな生活について語ったものだ。2008年に文庫として出版され、ベストセラーになっている。 本書はその「大活字本」。字がびっくりするほど大きい。想定している読者は、たぶん高齢者や視力が落ちている人だろう。

500部限定の希少本

 大活字本というものを初めて見たが、本書の場合、1ページの行数はわずか11行。スカスカだ。同じ判型の他の書籍の約半分しかない。1行の時数は31文字。こちらも相当少ない。

 出版元は埼玉福祉会という耳慣れない会社。ホームページを調べてみたら、1978年に社会福祉法人として認可されている。いくつかの事業の一つとして「大活字本」の出版をやっている。年に約30タイトル。得意先は全国の公共図書館、老人ホーム、盲学校、病院、福祉センターなど。いわゆる一般向けの図書ではない。本書の奥付を見ると、「500部限定」と書いてあった。

 ちなみに、埼玉福祉会の企業案内には、企業理念などが以下のように記されている。

「開設以来一貫して重度身体障害者に就労の場を与え健全な社会生活が営めるように、障害者と健常者が一体となって働ける場として法人を経営してまいりました。当法人は従来の保護的、保障的な福祉ではなく、市場経済の競争原理のなかで積極的に事業を展開し、利益を生み出すことで身体障害者の雇用を創出していくことを基本理念とし、『文化と福祉の創造』をテーマに各種事業を行っています」

車いすの人たちがパソコン作業

 本書から浮かび上がってくるのは、「大活字本」というやや特殊な本に関わる、ふだんはあまり見えてこない人々の世界だ。福祉関係の施設で働く人がつくって、図書館のほか、福祉・医療などに関わる組織が購入する。「500部限定」の希少出版だから、ビジネスとしては厳しいものがあるに違いない。

 同会でほかにも『日本辺境論』(内田樹)、『欲望する脳』(茂木健一郎)、『空飛ぶタイヤ』(池井戸潤)、 『夜の橋』(藤沢周平)など多数の大活字本を出版している。編集、印刷、製本まで自前でやっているようだ。ホームページには、何人もの車いすの人たちがデスクパソコンで作業している様子の写真も掲載されている。

 同社は図書館関連の事業に特に力を入れているようだ。書架やブックコートなどの図書館用品のほか、大学・専門図書館の図書データ入力・装備作業なども請け負っている。会社案内によれば、和書資料、アルファベット諸言語はもとより、ロシア語、中国語、ハングル、タイ語、ヒンディー語ほかの特殊言語や和装本・漢籍、洋古書の貴重書などにも対応しているというから驚く。「知の蓄積」が相当あると感じだ。

 たまたま図書館で本書を手にしたが、内容はさておき、本のつくられ方にまったく予想外の発見があった。

 本欄では障害関連で、『発達障害の子どもを理解する』(集英社新書)、『考える障害者』(新潮新書)、『働く発達障害の人のキャリアアップに必要な50のこと』(弘文堂)、『精神障がいのある親に育てられた子どもの語り』(明石書店)、『車イスの私がアメリカで 医療ソーシャルワーカーになった理由』(幻冬舎)など、図書館関連では『公共図書館運営の新たな動向』(勉誠出版)、『挑戦する公共図書館』(日外アソシエーツ)なども紹介している。

  • 書名 持たない暮らし
  • サブタイトル大活字本シリーズ
  • 監修・編集・著者名下重暁子 著
  • 出版社名埼玉福祉会
  • 出版年月日2018年11月20日
  • 定価本体3100円+税
  • 判型・ページ数A5判・330ページ
  • ISBN9784865962666

オンライン書店

 

デイリーBOOKウォッチの一覧

一覧をみる

書籍アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

漫画アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!

広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?