読むべき本、見逃していない?

「私にしかできないことがあると信じたい」

車イスの私がアメリカで 医療ソーシャルワーカーに なった理由

 日本の社会常識からすると、ちょっと想像できない。『車イスの私がアメリカで 医療ソーシャルワーカーになった理由』(幻冬舎)。なぜそんなことが可能だったのか。 本書を読んで、それを可能にしたのは、著者の上原寛奈さんの驚嘆すべき不屈の精神力だと思った。人間の運命や社会の在り方について、改めて考えさせられた本だ。

両目の水晶体は失った

 上原さんは1978年生まれ。5歳の時にとつぜん膠原病の一種「若年性多関節リウマチ」を発症した。難病指定されている免疫異常の病気だ。40度以上の高熱が続き、すべての関節が「地獄の激痛」に襲われて赤く腫れあがる。最初は何の病気かわからなかったという。検査に次ぐ検査。元気な「健康優良児」だった上原さんの人生は一変した。薬で症状を抑えたことの引き換えに、身長は125センチで止まり、関節のこわばりで歩行不能、車いすの生活となる。

 5歳から2年間は大阪警察病院に入院していた。その後、いったん自宅治療になったが、再び症状が悪化。87年から90年にかけては大阪大学附属病院に入院した。行動範囲はベッドの上だけ。様々な治療にトライした。一番つらかったのは、「血液交換」だったという。

 視力も低下した。ステロイド薬の副作用によるものだ。子どもながら白内障になり、裸眼では明暗の識別しかできなくなる。10歳で手術、両目の水晶体を失った。現在は特殊なコンタクトレンズと眼鏡を利用している。

15歳で初めて学校に行く

 学校には行けなかった。そこで上原さんは教育テレビと読書で独自に勉強した。中学は、養護学校の「訪問学級」。いわゆる自宅学習だ。週に何日か教師が家まで来て、勉強を教えてくれた。15歳になって初めて学校に通うようになる。週3日登校の通信制高校だ。このあたりまでの経歴を知るだけでも、上原さんがいかに大変だったか分かる。

 この後がさらにすごい。英語が好きだったので、将来は翻訳家にでもなろうと思って、短大に進む。そこでは何と「ボランティア部」の部長も務めた。しかし卒業、就職を控えて壁にぶち当たる。面接すらしてくれる会社がない。上原さんは「もっと自分に"箔"を付けなければ」と奮い立ち、米国留学を決意する。

 そこから先も苦難の連続だった。結論から言えば、カリフォルニア州立大学ノースリッジ校を首席卒業、さらに南カリフォルニア大学大学院を首席卒業。大学では福祉学、大学院ではソーシャルワーク科で医療を専攻した。そして米国で医療ソーシャルワーカーとして8年勤務した。その後、再び症状が悪化したので帰国し、現在は治療に専念している。

 日本に戻ってから人工関節の手術を受けた。術後の痛みは想像以上だった。いまはサポートなしの立位と平行棒を使う歩行訓練などをしているという。

 「やばい、死ぬのか?」「頭がおかしくなった」「できることといえば毎日泣くだけ」「消えてしまいたい衝動に駆られていた」。本書はそうした苦難の日々を、明るいタッチで、時にジョークも交えながら振り返っている。

周囲への感謝の言葉

 上原さんが今日あるのは、冒頭に書いたように、本人の強靭な精神力と向上心によるところが大きい。だが、それだけではない。まず、家族の徹底的なサポート。警察病院に入院中は、祖母がずっと個室で一緒に暮らしていた。阪大病院に入院中は母親が仕事をやめて、付添用ベッドで寝起きを共にした。米国留学では、姉が同行し、世話をしてくれた。

 さらに上原さんは本書で医師や教師、友人たちへの感謝も繰り返す。警察病院や阪大病院の医師、訪問教師、高校、短大、大学時代の友人たち。阪大病院の医師には30年近くも「主治医」をしてもらっているという。難病と闘いながら、周囲のサポートもあって、ステップアップしていく上原さんの様子がよくわかる。

 本書を読んで、二つほど教訓的なことがあった。一つは、病院に長期入院している子どもたちが学ぶ「院内学級」の体制が日本では極めて不十分なこと。憲法で保証されている「教育を受ける権利」が守られていない。

 もう一つは、障害者に対する日米の格差。上原さんは、アメリカでは「私だけではなくいろいろな異なった障害を持った生徒たちが100%自分の力を発揮できるサービスと環境を提供してくれた」「カルチャーショックを受けた」と書いている。

 本書の最後で上原さんは、自ら言い聞かすように、こう宣言する。

「私の人生は山あり谷ありだが・・・いずれ必ずアメリカで臨床医療ソーシャルワーカーとして復活するだろう。なぜなら私の人生には意味があり私にしかできないことがあると信じたいからだ」

 不撓不屈ということの一つの実践例が本書といえる。地域や学校の図書館にはぜひ置いて多くの人に読んでもらいたい本だと思う。

 本欄では、患者を献身的にサポートする医師が登場する話として、『死を思うあなたへ』(日本評論社)なども紹介している。

  • 書名 車イスの私がアメリカで 医療ソーシャルワーカーに なった理由
  • 監修・編集・著者名上原寛奈 著
  • 出版社名幻冬舎
  • 出版年月日2018年9月17日
  • 定価本体1200円+税
  • 判型・ページ数四六判・158ページ
  • ISBN9784344918658

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