宮藤官九郎さんと言えば、今年(2019年)のNHK大河ドラマ「いだてん」の脚本を手掛けていることで知られる。俳優でもあり、ロックバンド「グループ魂」のメンバーとして、過去には紅白に出場したこともある。脚本家だが出演者並みの知名度があるせいか、NHKは年末年始に宮藤さんを異様なほど画面に露出した。
きわめつきは、「ファミリーヒストリー」への出演。先祖をさかのぼり、出演者の家系を明らかにするという個人情報満載の番組だ。少し当惑気味に登場した宮藤さんだが、正直言って盛り上がりや感動に欠けた回になってしまった。近所の神社と遠戚関係にあることが分かったが、たいしたエピソードはない。母親と祖父が岩手県のある家から養子に来ていたことも当事者らはもちろん知っており、「ふーん」という程度。亡くなった父親が芸達者だったことが、宮藤さんの現在の活動に影響を与えているかのような強引なエンディングだった。「いだてん」の番宣のためだろうが、違和感があった。
劇団「大人計画」の芝居や「木更津キャッツアイ」など先鋭的なセンスのテレビドラマ脚本のファン(クドカンドラマのシナリオを買い集めるほど)としては、なんとも歯がゆい正月明けになってしまった。
そんな折、手にしたのが本書『ん !?』(文藝春秋)である。「週刊文春」の連載「いまなんつった?」をまとめたもので、「あまちゃん」(2013年、NHK)以降の仕事の話を作品ごとに章立てた。シリーズとしては、5年ぶりの3冊目ということになる。
11年の冬、岩手県久慈市へのロケハン帰りの新幹線車中で、宮藤さんは「あまちゃん」の構想をしゃべり出したという。その時点ですでに26週分のエピソードが出来ていたというから凄い。宮藤さんは早く缶ビールを買って飲みたいのに、プロデューサーたちは向かい合わせに座り、打ち合わせになった。
「ユイは結局、一度も東京には行けないということですか?」とプロデューサーが詰めてくる。「夏さんは20週あたりで上京しましょうか」。早くビール飲みたいのでべらべらしゃべるうちに、おおよそあらすじが出来てしまった。「もし途中で飲んでたら『あまちゃん』の展開は全く違ってたかも知れない」というから面白い。
「いだてん」について最初に触れているのは16年の8月11・18日号だ。詳細は明かせないが、としながら欧州に取材に来ている、と書いている。「フィンランドまで足を伸ばして本場のサウナに入りたいなとか、妄想してはニヤニヤ」というから、日本が初参加し、「いだてん」の主人公、金栗四三が出場した1912年のストックホルム五輪の取材のため、スウェーデンに行った、と今ならわかる。ずいぶん前から準備していたんだね。
「『いだてん』ばっかり書いています」と告白したのは18年の4月12日号だ。パソコンを抱えて家を出てファミレスとカフェを渡り歩きながら7時すぎまで仕事をする「サラリーマン」のような生活を1年以上続けている、と書いている。大河ドラマの脚本書きは想像以上に重労働のようだ。
週刊誌の連載(19年1月17日号)では、いよいよリアルタイムで「いだてん」を取り上げている。明治時代に「嘉納治五郎じゃん!」というせりふは、自分の創作と思っていたら、「じゃん」は山梨の方言で明治以降は横浜でも使われていたことが分かったという。また若者たちが集う天狗倶楽部の「てんてんぐ!」「ててんのぐ!」という掛け声は実際のものだったそうだ。
読者の一般像を想定して、NHKの二つのドラマについて取り上げたが、本書には「ごめんね青春!」(14年、TBS系)「ゆとりですがなにか」(16年、日本テレビ系)「監獄のお姫さま」(17年、TBS系)など民放の仕事についての章もある。16年には「ゆとりなんです」と若者から声をかけられることが多かったそうだ。ゆとり世代を批判も擁護もしていないけど、理解者に思われたと戸惑う心境を明かしている。
読み返して、6年も前のドラマのことがまったく古びていないことに驚く。そこが宮藤さんの天分なのだろう。
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