あっというまに外国人労働者の受け入れ拡大が決まった。今後5年間で最大34万5千人増えるそうだ。いよいよ日本も「移民解禁」かと、各方面で話題になっている。
本書『〈超・多国籍学校〉は今日もにぎやか!――多文化共生って何だろう』(岩波ジュニア新書)は一足早く、外国人が増えた横浜市の小学校の物語だ。
同市泉区にある市立「飯田北いちょう小学校」は17年12月現在、外国籍の児童が120人。親が外国籍で子どもは日本国籍など、外国につながる児童が28人。合わせて148人(全校児童の約54%)が外国と関係がある児童だ。しかもベトナム、カンボジア、ラオス、中国、タイ、フィリピン、ビルマと国際色豊か。様々な国の言語や文化を背負う子供たちが学んでいる。
日本で外国人が多い自治体と言えば、大阪の生野区や、浜松市、群馬・大泉町などがすぐに思い浮かぶ。生野区は韓国籍、浜松や大泉は日系ブラジル人が多い。つまり、特定の国籍に限られているが、飯田北いちょう小学校は超多国籍なのが特徴だ。これは、隣接する神奈川県大和市に1998年まで「インドシナ難民定住センター」があり、多数のインドシナ難民が暮らしていたからだ。センターで一定期間の日本語教育や生活ガイダンスを受けた難民は、飯田北いちょう小学校の学区にある県営団地に入居することが多かった。その結果、同小にインドシナとつながりを持つ児童が増えることになった。
著者の菊池聡さんは2004年から18年3月まで国際教育担当として同小(統合前のいちょう小学校も含む)に勤務してきた。本書によれば、学校という枠を超え、幼稚園、保育園から中学、高校との連携、地域ボランティア団体との協働をすすめ、多文化共生に取り組んできたという。その様子はNHKでも取り上げられているので、見た人も少なくないだろう。
児童の半分以上が、外国とつながりがあるわけだから、教員の苦労や学校の取り組みもハンパではない。校内のあちこちに多言語の表示。手作りの教材も必要だし、国語や算数のクラス編成は2人から、という習熟度別の少人数。児童の中には日本で育って日本語が流暢な子も少なくないが、日常会話の能力と日本語での思考能力は一致しないので、細かな配慮が欠かせない。
一方で運動会は、大いに盛り上がる。日本語がよく分からない親のために、高学年の児童が母国語でアナウンス。応援合戦では多言語が飛び交う。父兄や教員も参加する全校ダンスは、ベトナムのダンスや太極拳、カンボジアの民族舞踊など多彩だ。アトラクションでは中国の獅子舞も披露される。
極めて真面目な取り組みもしている。6年生になると、国語の発展学習で「平和について、自分でできること」という視点で、難民の子らが親や親戚にインタビューして自らのルーツを調べて作文を書くのだ。「よこはま子ども国際平和スピーチコンテスト」に参加する子どももいる。菊池さんが在職した15年間で4人が最優秀賞を受賞し、市の代表としてニューヨークまで行ったという。
菊池さんのモットーは多文化共生だ。ブラジルやアメリカにも視察や研修に出かけて先進国の実例も学んできた。カリフォルニアでは、住民の4割が家庭では英語以外をしゃべっているという。トランプ大統領が不法移民にキレているが、米国ではちゃんと、サポート教育も行われている。カリフォルニアの学校では、日本語、スペイン語、フランス語からアルメリア語まで7言語について、母国語と英語の両方を習得できるようなプログラムが組まれている。多数の日本人子弟も学んでいる。ロサンゼルス郊外だけで日本人の小中高生は1300人もいるそうだ。
菊池さんは2001年から03年まで香港の日本人学校に勤務していたことがある。家族も伴って赴任したが、妻と息子は次第に外出を渋るようになる。そこに手を差し伸べてくれたのが、地元の人たちだったという。「マジョリティ側がマイノリティを尊重して親身に寄り添う」――その大切さを身を持って知ったことが、「国際教育担当」としての原体験となっている。
日本での急激な外国人労働者の受け入れは、様々な問題を引き起こすことが懸念されている。本人はまだしも、定住した場合、子どもたちの教育はどうするのか。子どもは母国籍のままか、それとも日本国籍を取るのか。
18年7月11日の日経新聞によると、同年1月現在、日本で暮らす外国人は249万7千人。東京で暮らす20代の若者の1割、新宿区では20代の4割が外国人だという。彼らが定住すれば、当然ながら子どもの教育問題が浮上する。
菊池さんは18年4月から横浜市内の、横浜駅近くの別の小学校に移ったが、そこでもすでに外国に関係のある児童が約6%いるという。まだ「目立たない」状態だが、何かできることはないか、模索中だ。多元文化・多言語教育で汗をかいてきた菊池さんの経験は、新しい職場でも生きることだろう。また本書は、これからそうした波を引き受けるかもしれない多くの教育関係者にとって、大いに参考になると思われる。
関連で本欄では、『外国人の受入れと日本社会』(日本加除出版)、父が外国人の日本選手が増えていることについては『スポーツでひろげる国際理解〈3〉国境をこえるスポーツ』(文溪堂)なども紹介している。
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