医学が発達するにつれて新しくいろいろな病名や症状名が知られるようになる。「発達障害」もその一つだ。
最近は、内外の有名人の中にも、発達障害を公表する人もいるようだ。しかしながら当事者にとってはなかなか大変だということを、本書『働く発達障害の人のキャリアアップに必要な50のこと』(弘文堂)を読んで再認識した。
発達障害は、自閉症、アスペルガー症候群、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)などに類する脳機能の障害とされている。日本では04年に発達障害者支援法が成立し、様々な支援策も講じられるようになった。とはいえ世間の理解や対応はまだまだ遅れている。
本書の著者の石井京子さんは、一般社団法人「日本雇用環境整備機構」理事長。長いあいだ障害者の雇用問題にかかわってきた。すでに10年に『発達障害の人の就活ノート』を出版、その後も関連書を出し続けて本書が10冊目になるという。
全体は「働くために必要な基礎知識」「脳機能と発達障害」「働き始めてからの課題」「キャリアアップ創出プロジェクト」「発達障害のある人が活躍する未来」の5章に分かれている。それぞれにさらに細かく「学校では教えてくれないこと」「できる仕事・できない仕事」「自分のことがわからないままでの自立の難しさ」「障害特性を活かして働く」などの細かなアドバイスが続く。
本書では執筆協力者によるコラムも多数掲載されている。その中では33歳で発達障害の診断を受け、大手パソコン会社でシニアアナリストをしながら発達障害者の「自立」などを研究、現在は明星大学の発達支援研究センターの研究員をしている岩本友規さんの一文が興味深かった。転職先への応募書類をやっとのことで書き上げて、いざ封筒に宛名を書こうとすると、なぜか自分の住所や実家の住所を書いてしまう。しかも、キャリアダウンの応募書類なのに、どこからも採用の通知が来ない。社会から認めてもらえない。先の見えない不安から、何度もマンション4階の自室のベランダから下をのぞきこむようになってしまったという。
転機になったのは、医者を替えたこと。それまでは「5分間診察」の医者だったが、新しい医者は長時間の問診もしてくれた。新たな薬によって、「いま自分がどんな状態にあるか」などの把握ができるようになってきた。ストレスからの回復力が上がってきたという。 そうして岩本さんは、自身で『発達障害の自分の育て方』という本まで書くようになったという。
本書では社会人の発達障害の話が中心だが、近年問題になっているのは若年層だ。2002年の文科省の調査によると、知能発達に遅れはないが、日常の学習や行動において、特別な配慮が必要とされる「発達障害などの」児童は6.3%いるという。ジャーナリストの石井光太さんは近著『漂流児童』で、日本では「生徒の15人に1人が発達障害」と書いていたが、おそらくこの数字をもとにしているのだろう。
大変な数字だと思う。これからどんどん社会に発達障害の人が増えてくる。教育現場だけでなく、会社の人事セクションや管理職にも「発達障害」についての知識と理解が欠かせなくなっている。
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