読むべき本、見逃していない?

小中学校で「消えた同級生」はどこにいる?

漂流児童

 著者の石井光太さんは東日本大震災の「死」を徹底取材した『遺体』で脚光を浴びた。その後も精力的にノンンフィクションを発表し続けている。本書『漂流児童』(潮出版社)は、社会から切り捨てられ置き去りにされた子どもたちがテーマだ。「福祉施設の最前線をゆく」という副題が付いている。10月の発売だが、早くも増刷になっている。

レールから除外された子どもたち

 ノンフィクションの世界では、長く新聞記者出身者や団塊世代が活躍してきた。そのあとに続く人材が枯渇しているとも言われてきたが、どっこい、最近はかなりエネルギッシュな書き手が増えている。そうした新世代の筆頭格が石井さんだ。今回は、「児童福祉」の現状に迫っている。

 冒頭、石井さんは数字を挙げる。児童相談所に寄せられる虐待件数は年間13万件、国内のシングルマザーは約120万人、子どもの6人に1人が貧困、小中学校を長期欠席している生徒は約20万人、生徒の15人に1人が発達障害・・・。

 石井さんは社会には「レール」があるが、そこから外れた子ども、こぼれ落ちた子どもが少なくないことに目を凝らす。踏み外した子もおれば、突き落とされたり、最初からレールに乗せてもらえなかったりする子どもがいる。もちろん、そうした子どもたちの受け皿として、様々なセーフティネットが用意されている。それらが十分機能しておれば、問題は起きないはずだが、現実はそうではない。ホームレスの3割以上は知的障害者、刑務所の受刑者の4割が中卒という統計を引き合いに出しながら石井さんは強調する。

 「社会問題の渦中にいる人々の中には、幼少時に不利益を被っている者が少なくない。逆に言えば、レールからこぼれ落ちた人々を社会がきちんと支えてこなかったことが、今の社会問題を生んでいる側面があるのだ」

「最前線」の現場に行く

 石井さんはこれまでも児童虐待や少年事件、貧困、小児医療などの現場を歩いてきたそうだが、今回改めてまとめてレポートしている。心がけたのは「最前線」の現場に行くことだったという。

 第一章「子供の救出」では、「捨てられる子供たち――特別養子縁組」「母と子の逃避――母子生活支援施設」「丘の上の問題児たち――児童自立支援施設」「子供の七〇年史――児童養護施設」、第二章「マイノリティー」では「不登校児の居場所――フリースクール」「勉強ができない――発達障害のための塾」「 本来の自分を生きる――LGBT」「知的障害児の理想郷――障害児入所施設」をルポしている。

 さらに第三章以下では、医療少年院、少年刑務所、協力雇用主、子供食堂、夜間中学、子供ホスピス、赤ちゃんポストと現場を歩き続ける。セーフティネットといわれるものがこんなにもたくさんあり、そこに放り込まれたり、頼りにしたりしている子どもが多数いることを読者は知らされる。本書ではそうした場所で、子どもを支える大人たちの熱意と奮闘ぶりも報告されている。

 石井さんは子どもの戦後史を振り返り、「戦後~1960年代」を戦災孤児の時代、「70~80年代」を校内暴力の時代、「90年代」をいじめの時代、「2000年代」を虐待の時代と大きく腑分けしている。確かに戦後史を振り返ると、それぞれの時代に派手にマスコミで取り上げられた事象が浮かんでくる。

忸怩たる複雑な思いがルポの原動力に

 近年、社会の階層化が進んだといわれる。レールから外れた子どもたちは早めに振り分けられてしまう。石井さんは「あとがき」で語っている。小学校の頃、「臭い」といじめられていた子がいつの間にか姿を消した。父子家庭の子だった。そういえば、家庭でも虐待されていたのかもしれないと思う。別の子は小学校高学年から不登校になり、中学に入ると見かけなくなった。その子は、今から思うと性同一性障害だった。皆から「オカマ」と蔑まれていた。別の子は中学卒業後に特別支援学校に行ったと聞いたが、その後のことは分からない。

 「消えた同級生」の消息は、どこからも伝わってこない。誰も知らない。

 ノンフィクション作家になった石井さんは、子供たちの現場に足を運ぶたびに、昔の「消えた同級生」のことを思い出したという。そして当時、彼らに何一つできなかったことを悔やんだという。そうした忸怩たる複雑な思いが、今回のルポの原動力になったようだ。

 本書は月刊誌「潮」の2016年5月号から18年7月号まで連載された「アナザーチャイルド――社会から外れた子どもたち」をもとにしている。月刊誌は次々と廃刊になり、ノンフィクション発表の場は限りなく減っている中で、「潮」は今や貴重な媒体の一つとなっている。石井さんが一つのテーマを2年も追いかけることが出来たのは、編集部のバックアップと受け皿があったからだろう。

 子どもにとって、皆と同じスタートラインに立てず、同じレールを走れないほどつらいことはない。自力ではどうにもできないからだ。ハンディがありすぎる。本欄では戦災孤児との関連で『「混血児」の戦後史』(青弓社)を、世間でも学校でも見過ごされがちなケースとして『精神障がいのある親に育てられた子どもの語り――困難の理解とリカバリーへの支援』(明石書店)なども紹介している。

  • 書名 漂流児童
  • サブタイトル福祉施設の最前線をゆく
  • 監修・編集・著者名石井 光太 著
  • 出版社名潮出版社
  • 出版年月日2018年10月 5日
  • 定価本体1700円+税
  • 判型・ページ数四六判・352ページ
  • ISBN9784267021503

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