タイトルだけ見ると、日本の意欲的な図書館の紹介かなと思う。ところが違っていた。本書『挑戦する公共図書館』(日外アソシエーツ)に登場するのは海外の図書館ばかり。要するに、日本の図書館は相当遅れているのではないかという警告の書だ。図書館関係者の間では先刻ご承知の話なのかもしれないが、門外漢には新鮮な話が多かった。
「デジタル化が加速する世界の図書館とこれからの日本」という副題がついている。海外の公共図書館がデジタル時代にどう対処しているのか、最新状況を知り、日本の公共図書館の進むべき道を探る――というのが大きなテーマとなっている。
最初のあたりでポンポン出てくるのが「メイカースペース」という単語だ。直訳すれば「つくる空間」という感じか。世界のあちこちの図書館に、そうしたスペースが新設されている。これでもか、というぐらい本書では頻繁に登場する。いまや「メイカースペース」がない図書館は一流とは言えない、という感じさえする。
具体的にどういうスペースかといえば、まず3Dプリンターが必ずある。2014年の調査によると、全米の約9000の図書館のうち428の図書館に3Dプリンターが設置されているそうだ。ロボットやレーザーカッターなどが使えて、そこで新たな「ものづくり」ができる。動画の編集などデジタルコンテンツづくりも可能。あるいは電子ピアノやエレキギターを使って音楽のレコーディングもできる。作品はネットで公開されたりもする。
図書館のコンセプトを揺るがす新事態といえるだろう。本と接するだけの場所ではなくなっている。IT時代の公共的な工作エリア、それがメイカースペースだ。主に最新のデジタル機器を手軽に使って手軽に各種の創造活動ができる。海外の青少年にとっては、自分のちょっとした発想や夢を実現できるクリエーティブな場所となっている。
もう一つ驚いたのは中国の図書館の発展ぶり。国がちょっと号令をかければ、たちどころにコトが進む、というのがプラスに作用しているようだ。主要都市の図書館の状況が紹介されているが、その巨大ぶりと、利用者数には一目置かざるを得ない。広州市図書館の床面積は都立中央図書館の4倍。利用者数は年間700万人を超えている。こうした巨大図書館が中国のあちこちにできている。
しかも装置は最新鋭。自動貸出機や返却機はもちろん、検索ディスプレイでは、自分が探している本が、どの棚のどの部分にあるかピンポイントで表示される。
24時間サービスの図書館も世界のあちこちにできている。台湾最大の都市、新北市の市立図書館新館の1階と4階は24時間開放。こちらでも自動貸出装置が大活躍だ。
本書は日本農学図書館協議会の会誌に連載した「海外図書館の最新動向」を単行本にしたもの。著者の長塚隆さんは鶴見大学名誉教授。欧米はもちろん、アジア、アフリカなど多数の実例が現地ルポとともに紹介されている。260点の写真・図版も掲載され、視覚的に世界各地の公共図書館の新しい動きを知ることもできる。索引も付いている。
さて、「これからの日本の図書館」はどうすればいいのか。本書を読む限り、かなり水をあけられているという感じは否めない。次世代の青少年を育てることに直結しているだけに残念であり深刻だ。
本欄では図書館関係で『公共図書館運営の新たな動向』(勉誠出版)など多数を紹介している。
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