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民主主義政治の停滞か――統一地方選の結果をみて(第22回)

学習院大学名誉教授 戸松秀典

1 地方自治体の現状

 第18回の本欄で、町村議会において生じている動揺のことを扱いました(注1)。それは、高知県大川村と群馬県昭和村それぞれの村議会が直面していた問題にかかわることでした。幸い、両村議会とも一応の問題解決ができたようです。しかし、全国の地方自治体において、議会議員選挙の候補者不足をはじめとする問題をかかえており、自治体における議会政治について真剣に考えなければならない状態となっているようです。それは、この春に実施された統一地方選挙の実施状況に照らすと(注2)、その思いが一層強くなります。

(注1)「第18回 民主主義の原点――町村議会の動揺」を参照して下さい。
(注2)以下であげる第19回統一地方選挙(4月7日と21日に実施)に関する記録は、本年4月中の新聞記事やネットニュースによるものですが、その個別の所在にふれることを省略します。たとえば、日本経済新聞の「きしむ地方議会 上、中、下」(4月3日から5日の朝刊)や「衰える地方――色あせた平成の分権 上、中、下」(4月17日から19日の朝刊)などを参照しています。

 ところで、地方自治体の現在の状況を正確に把握することは容易ではありません。北は北海道から南は沖縄県まで、数多くの自治体がそれぞれの経緯を経て、今日の状態になっていて、一律に考えることが許されないと思われるからです。そこで、今回の統一地方選挙に関してマスコミをとおして現れたところに注目しながら、全自治体の現状の一端ではありますが、考察することとします。そして、私の得ている結論として、地方自治体は、民主主義の発展のための基盤でありながら、停滞の状態にあるといわざるを得ないということです。

 このような結論を掲げて考察するのは、地方自治制度が3度の大きな変革を経て今日に至っていることが念頭にあるからです。変革を経たからには、その先には、目立った躍進が期待されるのが通常であるのに、それが生じていないため、停滞などという消極的評価を投じなければならないのです。

 ここで、その3大変革の詳細についてはふれるゆとりがないのですが、少なくとも、明治政府の行った廃藩置県と、日本国憲法での地方自治制度の発足に伴う1947(昭和25)年の地方自治法の施行という二つの改革を経て、1995(平成7)年に始まる第三の改革(注3)の延長線上に現在があることは、重視しなければなりません。とりわけ、1999年に始まるいわゆる平成の大合併は、3200以上あった市町村が約1770まで再編されたことに照らすと、地方自治の現状に大きな変化が生じ、選挙ではその効果が認められてもよいはずです。しかしながら、上で示した結論のように言わざるを得ない実情なのです。

(注3)1995(平成7)年の地方分権推進法に基づいて地方分権推進委員会が設置され、同委員会により5次にわたる勧告が出されるなどの段階を経て、1999年の地方分権一括法によって一応の結実をみました。その後も、2002年からの三位一体改革、2006年の地方分権改革推進法の制定などと、着実に改革が進められて今日に至っています。

2 選挙に伴う問題

 今春の地方議会議員や市区町村長の選挙の様相を概略ながらみてみます。地方自治体には、そもそも地方なりの自律あるいは独自性が存在するといってよく、それ故、なぜ統一地方選挙なのかという疑問がわきますが、このこと自体に問題があるとの指摘にとどめ、選挙の実施に伴う主要な問題点を以下にあげておきます。

 まず、第18回の本欄でとりあげた村議会議員のなり手不足は、県会議員についても生じています。たとえば、4月7日に投開票される神奈川、埼玉、千葉の3県議会議員選挙で、全選挙区の4割近くが無投票となったのです。つまり、立候補受付の締め切りである3月29日の午後5時に、その3県の議会選挙戦が行われるための立候補者の競合がなく合計77人が当選を決めたのです。その3県は、首都圏に存在し、横浜市、さいたま市、千葉市といった県庁所在地の選挙区においても、選挙戦を行う立候補者が現れなかったということです。これでは、憲法93条2項で、地方議会の議員は、「その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する」と定めていることの意味がなくなっています(注4)。選挙権を有する自治体の住民がそれを行使しないまま、議会が構成されるという異常な事態となっているわけです。

(注4)「直接・・・選挙する」と定めているのは、明治憲法時代になされていた間接選挙ではないという意味で、国政選挙の場合と全く同じことです。

 次にあげるべきは、女性議員が少ないということです。これに関連するテーマは、本コラムで二度もふれているところですが(注5)、国政レベルの議員はともかく、生活に密着した行政上の政策決定にかかわる地方議会では、女性議員が多くなってもおかしくないと思えるのですが(注6)、そのような結果は生まれていません。政令市を除く市議選では、改正定数6726(欠員2)のうち18.4パーセントの1239人が当選した女性市議だと伝えられ、それが過去最高だと報じられているのだから、まことにレベルの低い状況です。女性市議が50パーセント程度となるための道は遠いように思われます。ただし、市長選では6人の女性が当選し、それがこれまでで最も多いことなので、少しは変化しているといえるのかもしれません。

(注5)本欄の第5回第16回を参照して下さい。
(注6)これは、男女の役割分担を定型化する差別的発想ですが、これを超えていない日本社会の現状を一応の土台としています。

 さらに、統一地方選挙の結果を見て低い評価をしなければならない点として、投票率の低さにあります。これは、県議会議員選挙でも市区町村議会議員でも共通してみられ、前回の2015年の統一地方選挙における投票率よりもさらに低下していることに驚かされます)(注7)。それほどに自治体住民の関心が薄れている原因は何であるのか、しっかり分析せねばならないといえます。

(注7)その低さは、50%を割る値ですから、この数値をみて深刻だと言わざるを得ないのではないでしょうか。

3 停滞からの脱却

 以上のように、統一地方選挙の結果をみると、日本の民主主義が停滞状態にあるといわざるを得ないのです。そこで、これから脱するにはどうしたらよいのか方策を考えなければなりません。しかし、その方策を積極的に打ち出す雰囲気が現在の政治状況には存在していないように思えるようですが、少しの期待を込めて、主要な点を以下にあげておきます。
 まず、地方自治体が停滞の状態から脱するためには、国政の基本的変化を生み出す方策から手を付けることが必要です。それは、道州制を導入し、道州から選出される国会議員が参議院を構成するという改革です。道州選出議員は、自治体を活性化させる論議を国会に生み出し、制度改革をするはずです。これについては、すでに本欄においてふれています(注8)。

(注8)第2回の「散歩中によく考えたテーマ――二院制と参議院改革」を参照して下さい。

 この道州制とともに、大阪都構想も自治体改革にかかわる注目すべき方策の提示です。その是非をここで論じるつもりはありませんが、それは、少なくとも、停滞の状態を脱する論議の発端となり得ます。
 次に、選挙方法について厳しい検討をしないまま選挙を繰り返している感覚に疑問を投じたいのです。選挙の実施方法についての疑問がいくつかありますが、それを改革しないままの状態がつづくため、選挙への関心が薄れているといって間違いないようです。無駄であり、合理性に欠け、効果がないといえる規制がらみの選挙運動が存続していることは、本欄ですでにとりあげています(注9)。そこには、選挙運動の規制が立候補を困難とさせ、新人議員の誕生を阻んでいることも指摘せねばなりません。これについては、地方選挙に限ったことではありませんが。

(注9)第8回の「街角の広告――選挙運動の自由」を参照して下さい。

 また、選挙方法といえば、そもそも現行制度が自治体の政治の担い手を選ぶ選挙となっているのか、住民の投票が単なる人気投票的性格を持ち、政治家という人を選ぶ投票となっていないのではないかということも、疑問の代表です。このことについては、別の機会に取り上げる予定です。

 最後に、女性の議員を増やすための方策も、諸外国のやり方をまねるといったありきたりの方法でなく、もっと根本的に日本社会の状態を分析して打ち出すべきです(注10)。すなわち、議員としての活動の場が男社会の伝統を踏襲したものから脱して、女性がこだわりなく活動できる環境の場に生まれ変われるのかということが検討の内容です。

(注10)昨年(2018年)5月成立の「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」は、心構えをうたうのみで実効性のある具体策がなく、これで果たして現実に女性の議員を増やすことができるのか疑問です。

 以上は、主要な改革事項ですが、もう少しことばを尽くして説明すべきことばかりです。今後、本欄で個別にとりあげ、立ち入って考察したいと思っております。

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■著者プロフィール


tomatsu_pf.png 戸松 秀典 憲法学者。学習院大学名誉教授。

1976年、東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了(法学博士)。新・旧司法試験委員、最高裁判所一般規則制定諮問委員会委員、下級裁判所裁判官指名諮問委員会委員、法制審議会委員等を歴任。

●著書等
『プレップ憲法(第4版)』(弘文堂、2016年)、『憲法』(弘文堂、2015年)、『論点体系 判例憲法1~3 ~裁判に憲法を活かすために~』(共編著、第一法規、2013年)、『憲法訴訟 第2版』(有斐閣、2008年)『憲法判例(第8版)』(有斐閣、2018年)、など著書論文多数。

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