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民主主義政治の原点――町村議会の動揺 (第18回) 

学習院大学名誉教授 戸松秀典

1 町村議会の存続をめぐる問題

 少子高齢化が原因で、いろいろな問題が生じています。今回、村議会の存続が可能か、それとも町村総会を設けるべきか、という問題に目を向けようとしていますが、その問題の背景には、高齢化の進む村の現状が関わっています。

 まず、具体例を二つあげます。その一つは、2017年6月に、高知県の大川村が村議会の廃止について検討をはじめていると報じられたことです(注1)。それによると、大川村は、人口が406人で、議員になる者が不足し、村議会の維持が困難になっており、村の有権者全員が参加する町村総会を設けるべきかの検討を始めているとのことです。

(注1)日本経済新聞2017年6月13日朝刊。

 二つ目は、群馬県昭和村の村議会に関する報道です。群馬県昭和村では、村議会議員のなり手不足が深刻となっていて、立候補者が定員を3人欠いた状態のままがつづいており、それでは村議会が成立しないということです。この村も、高齢化が進み、議員のなり手が少なくなっているとともに、議員給与の額が低く、それだけでは生活の維持が難しいことがその原因となっています(注2)。

(注2)NHK2018年11月27日の放送による。また、議員手当が月16万円余で、全国の村議会議員手当のランキングでかなり下位にあることも報じられています。

 地方の住民は、自らの力で政治を行うことが憲法第8章の規定によって保障されています。これを受けて、地方自治法は、その89条で自治体に議会を置くことを定めています。しかし、その94条で、「町村は、第89条の規定にかかわらず、議会を置かず、選挙権を有する者の総会を設けることができる」とも定めています。第一の例の大川村では、村議会の存続が困難となってきたため、この町村総会を設けようと検討を始めたわけです(注3)。

(注3)大川村議会の議員定数は6で、沖縄県北大東村の定数5についで2番目に少なく、現職6人の平均年齢が71歳で、2015年の村議選は無投票だったとのことです。

 町村総会は、1951年から1955年に東京の八丈小島の宇津木村で行われたこと以外、全国に実施例がありません。そこで、大川村は、独自に、どのように行うべきか、特に同村では高齢者が多いうえ、互いにかなり離れて住んでいるため全員が集まれるのか、高齢者が議案を読み込めるのかなどといった問題について、検討したようです。しかし、村民総会の実施は容易ではないので、あくまで村議会の維持の方向で検討しているようです。

 昭和村議会については、村民総会よりも、欠員となった議員3名をなんとか確保しようと努力している様子が伝えられました。農家に一軒一軒まわって、意向を聞き、説得しようとする場面がテレビの報道で伝えられていました。そして、年が明けた本年の1月に、3名の候補者を得て、無投票で当選し、村議会が成立したとのことです(注4)。

(注4)昭和村のホームページで確認。

2 地方自治は民主主義の基盤

 近年直面しているこのような村の議会の存続にかかわる問題に照らして、憲法の保障する地方自治の意義について確認しておきます。

 自治とは、自らのことは自らの意思で行うということですが、これは、民主主義・デモクラシーの理念の基盤といえます。したがって、地方自治とは、一定地域における政治や行政をその地域の住民自身の意思で行う体制のことをいいます。この地方自治の体制がどのようにして成立し、発展したかについて、通常、概説書や教科書では、国家の形成に先立って存在したとし、その具体的例を西欧、特に、イギリスやスイスを引き合いに出して説明されています。また、さらに国の民主制の発展を推進する力として地方自治を掲げ、西欧の国々における民主制の発展の基盤に地方自治が存在していると説かれています。

 このような説明を基礎にすれば、上で見た村の議会を民主制の基盤として尊重しなければならないし、大川村や昭和村の人たちが、村議会の存続に努力し、町村総会の在り方を検討していることは、憲法秩序を維持するうえで重要であることが理解できます。また、地方自治法94条が町村総会の定めをしていることの意味も理解できます。

 こうした理解のうえで、一つ問い掛けたいことがあります。それは、民主制の基盤としての地方自治の存在を、日本の歴史上の足跡をたどりながら説明できないのか、という問いです。これは、上述のように、概説書や教科書で西欧の歴史上の足跡をあげるだけで、日本の過去には触れていないからです。つまり、日本の歴史上、地方自治の基盤が存在していなかったといわなければならないようです。もっとも、憲法の概説書や教科書では、明治政府が明治憲法制定前から、地方制度を設けていたことを示し、それが日本国憲法のもとでの地方自治制度すなわち都道府県と市町村の制度となって展開してきていると説明しています。しかし、明治政府は、地方に自治の理念を浸透させるというより、強力な中央集権体制を築き、地方制度は、その中央の権限を効率よく浸透させるための制度であったというのが適切だと思います。そうであるため、日本国憲法のもとに民主的な地方自治制度を誕生させても、すぐにはうまく発展せず、自治省――今日では総務省に吸収されているが――の指導のもとに、自治政府の活動が展開されてきました。そして、1995年に始まった地方分権改革によって、地方自治体は、現在、自らの自治事務を推進する道を進んでいるところです。

 ごく概略ながら描いた地方自治の歴史的背景を念頭に置いたうえで、上でみた大川村や昭和村が奮闘している村議会の存続について考えなければならないと思います。すなわち、日本の政治における民主制の基盤が揺らいでいては、国政の民主制が不安となってしまうのではないでしょうか。国の政治の場面で、非民主的な動向が生じていても、地方自治体、とりわけ市町村における政治に根強い、確固たる民主制が生きていれば、国政の将来にそれほど不安を感じることがないと思えます。

3 町村総会や町村議会の可能性

 話がやや高みからの考察になってしまったようですので、元にもどすことにします。 はじめに切り出した少子高齢化のことですが、この傾向が今後急激に変化することはないと予想されます。そこで、村民総会や村議会によって村の自治を維持するためにいかなる方策を施すのがよいか、検討することにします。

 まず、議員のなり手不足を解決する方策です。自治体の議会議員に就任することは、都道府県議会や市議会の議員についてみると、ある程度魅力があるようです。それは、国会議員への出世の踏み台となるからですし、政治家としての活動の充足感が得られるようです。その具体例は、読者の皆さんの身近にみられるのではないでしょうか(注5)。

(注5)一例として、安倍政権における管義偉官房長官をあげておきます。彼は、秋田県出身で、法政大学卒業後、政治家を目指して、衆議院議員の秘書をやり、横浜市会議員を経て国会議員となり、現在の地位を獲得し活躍しています。その経歴の過程で、出身地の村会議員から出発することはあげられていません。

 次に、待遇の問題があります。昭和村で議員のなり手がないことの理由の一つに、報酬額があまりに低く、農家の人が農業を切り離して議員活動に専念するゆとりなどないと主張されていました。村会議員は、一職業人として扱われるべきです。

 さらに、待遇改善と並んで、兼職禁止の見直しも必要なことです。地方自治法は、国会議員や地方議会議員、さらに自治体の公務員の職を兼ねることを禁止している(92条)だけでなく、関係私企業からの隔離を定めています(92条の2)。議員活動の公正さを維持するため、前者の兼職禁止は当然としても、後者について、何がそれにあたるかについての柔軟な運用が求められるといえます。事実、大川村では、議員と団体役員などとの兼業制限を緩和する条例の検討をしているとのことで、注目されます(注6)。

(注6)日本経済新聞2018年12月3日夕刊。

 以上に加えて、議会の運営方法の改革も検討すべきではないかと思われます。農業や林業をはじめとする農村での生活を営むことを妨げないような議会の開会時間を設けることも、その改革の一例だといえます。夕方から夜にかけて、それも議事運営を効率よく行えば、議員のなり手もふえるのではないかと思われます。村議会の議事運営では、日本の社会に蔓延している機械的形式主義を避け、なるべく実質審議が浸透することを期待したいものです。

 このような改革に言及しだすと、国政におけるさまざまな非効率、形式主義、停滞蔓延などのことが浮かんできます。それ故に、自治体の議会がその存続に動揺などせず、民主主義政治の基盤であることを発揮するよう願いたくなります。

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■著者プロフィール


tomatsu_pf.png 戸松 秀典 憲法学者。学習院大学名誉教授。

1976年、東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了(法学博士)。新・旧司法試験委員、最高裁判所一般規則制定諮問委員会委員、下級裁判所裁判官指名諮問委員会委員、法制審議会委員等を歴任。

●著書等
『プレップ憲法(第4版)』(弘文堂、2016年)、『憲法』(弘文堂、2015年)、『論点体系 判例憲法1~3 ~裁判に憲法を活かすために~』(共編著、第一法規、2013年)、『憲法訴訟 第2版』(有斐閣、2008年)『憲法判例(第8版)』(有斐閣、2018年)、など著書論文多数。

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