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乱立する政党 ―― 政党政治への期待(第35回)

学習院大学名誉教授 戸松秀典

1 政党の乱立状態

 新型コロナウイルスの感染防止について散歩をしながら考えていたことが端緒となり、前回の本欄の執筆をしました。今回は、同じ散歩のコースにおいて、東京都知事選挙掲示板のポスターが目に入り、それが常々気になっていたことを刺激しました。それは、あまり自分の記憶にない政党名が目に入ったからです。帰宅後、選挙公報を広げて点検してみると、政党の乱立が相変わらずつづいていることを確認しました。そこで、今回は、日本の政治は、この政党の乱立状態でよいのかということを考えることにしました。

 まず、その乱立状態をながめておきます。といっても、日本の政党の変遷をたどるゆとりはないので、現状だけを確認しておきます。

 まず、政権を担う政府与党としての自由民主党と公明党、これに対する野党としての立憲民主党、国民民主党、日本維新の会、希望の党、自由党、社会民主党、および日本共産党が存在します。このうち自由民主党は、一党優位体制を築いているといわれるように、国会で占める議席数は野党に比べかなり多く(注1)、公明党と連立して政権を担っている状態は、堅固だといってよいようです。それ故、政党が乱立しているといっても、政権を担当していない野党についていわれていることです。

(注1)自由民主党は、衆議院・参議院の議員数が三桁であるのに対し、野党はどこも二桁以下の議員数しか所属していません。具体的数値は、ネットですぐ分かるので、ここでは掲げません。

 

 その野党は、10年ほど遡ってみると、日本共産党以外、離合集散を繰り返していて、民主党、民進党、みんなの党、太陽の党、たちあがれ日本、国民新党、さきがけ等の名前が思い出されるものの、どのような経緯をたどって現在に至っているかを簡単には説明できず、整理された資料に当たるしかない有様です。また、なぜそのような乱立状態を生んでいるかの根拠を説明することも容易ではありません。あえていえば、政党政治を確立しようとする意欲をまとめきれないからだとか、党の名称にこだわりすぎるとか、自己の政治家としての抱負に執着しすぎるとか等、多様な事情を指摘できます。

 また、はじめにふれた政党は、今回の都知事選の掲示板と選挙公報から知った名前ですが、その中には、衆議院や参議院の議員が所属する組織とは異なるのがありました(注2)。それについて立ちいって考察することよりも、なぜこのような乱立状態を生んでいるのかについて検討しなければなりません。おそらく、読者の皆さんも同様に関心を抱いていると推測します。

(注2)国政選挙ではまだ政党の地位を得ていない団体のれいわ新選組、幸福実現党、ホリエモン新党、スマイル党、トランスヒューマニスト党、国民主権党、日本第一党といったのがそれです。政党の地位については、すぐこの後でふれます。

2 二大政党の理想と政党の乱立

 政党は、憲法21条1項の保障する結社の自由のもとに存在し、政治的な主義や主張を同じくする者が集まった組織です。このことは、学校教育の過程で学んでいるし、社会での存在についてよく認識されているからここで改めて説明することではありません。しかし、上記でみた乱立状態にてらすと、本当によく認識されているのかと疑いたくなります。

 時代を少し遡ると、政党による政治は、二大政党によることが望ましいとの理想像が説かれていました。私もその理想を基に、政党政治の動向をみてきました。現実にも、1955年に、左派と右派に分裂していた革新政党の社会党が統一した党となり、これに対する保守の政党であった日本民主党と自由党が合体して自由民主党(自民党とも呼ぶ)となったので、いよいよ保守と革新の二大政党の時代が来たかと期待されました。これを55年体制と呼んだのですが、実際には、自民党の議員数は、社会党のそれよりかなり多く一党優位体制であったのです。1か2分の1体制とも呼ばれました。そして、この55年体制も長続きせず、政党の分裂が生じ、現在の乱立政党の状態が生まれることとなりました。

 55年体制の時に実現が期待された二大政党制は、イギリスやアメリカ合衆国での政党政治がお手本です。それによると、政権の交代がみられて議会政治が良好となる、政治が極端な方向に走らない、社会の変化に対応した政治が期待できるなどといった特徴がみられます。これは、一党独裁体制では到底得られない議会制民主主義の政治の展開に結びつきます。

 このような政党政治の理想像を求めて、努力がなされてきたことは否定できません。その代表的制度化が1994(平成6)年の政党助成法です。その第1条は、次のように定めています。

「この法律は、議会制民主政治における政党の機能の重要性にかんがみ、国が政党に対し政党交付金による助成を行うこととし、このために必要な政党の要件、政党の届出その他政党交付金の交付に関する手続を定めるとともに、その使途の報告その他必要な措置を講ずることにより、政党の政治活動の健全な発達の促進及びその公明と公正の確保を図り、もって民主政治の健全な発展に寄与することを目的とする。」
   この規定をみると、政党による政治活動の健全な発達がなされておらす、また、政党の活動には公明と公正さが不十分のようであるから、国が政党交付金による助成をするのだということが背後にあるようです。すなわち、現実には、それを裏付ける問題が日本の政党には存在しております。たとえば、政党に所属し支援する党員が少なく、党費のみでは党の運営ができないとか、多額の党運営費用を、その党を支援する企業、労働組合、その他の諸団体・組織に頼らざるを得なく、そこに利権がらみの弊害が生じるといった問題を抱えているのでした。それの解消をめざして、この政党助成法が制定されました。そして、国の助成をうける政党が政党としての地位を与えられるのですが、それは、政治資金規正法(注3)の制約をうける政治団体のうち、そこに所属する衆議院議員または参議院議員が5人以上を有するものなどの制限が設けられています(注4)。

(注3)政治資金規制法にかかわる問題につては、後の機会に扱いたいと思っています。

(注4)政党助成法2条を参照して下さい。さらに、この法律の規定をみると分かるように、政党の地位は、国から支援を受けるために複雑で詳細な規制を受けて存在できます。このことを拒否するため日本共産党は、国の助成を受けていません。

 このように、本項の最初に記した政党の定義に該当する組織には、政党助成法の対象となる政党と、そうでない政党とがあり、乱立する政党には後者に該当するものが多いのです。

3 政党政治の今後

 以上の概観から明らかなように、日本の政党政治は、未熟といってよく、その様相が先進国のそれなどと誇れる状態ではありません。したがって、今後の変革に期待せねばなりません。そこで、どのように変革することが求められるのか検討せねばならないのですが、それは、まことに容易でない問題だと言わざるをえません。

 まず、政党の存在は、それを支持する者、すなわち政党員によるものであるはずですが、すでに指摘したように、またよく知られているように、そうだといえないことに基本的問題があります。アメリカの大統領選挙の過程でよく報道されているように、二大政党のどちらもそれぞれを支持する党員である人々が、党から立候補する者を選出する集会に熱心に集まり支援しています。また、党員であることを示すカードをもち、党費を投じていることを誇らしげに示し、支持する議員に積極的に意見を伝えています。それに匹敵するような市民の存在が日本ではみられないといえます。

 支える党員が少ないために、前述したように政党助成金を国民の税金から給付していますが、これはもはや民主的な政党維持ないし支援とはいえないのではないのでしょうか。それに加え、国会議員の大多数を抱える自民党は、政党助成金を他の党よりはるかに多く受けており、党の活動費用が潤沢です。

 さらに、政党を支える資金すなわち政治資金が自然人である個人でなく、企業などの法人にも認められていて、その企業献金についての違憲論も排除されているため、政党の存在が民主的であるのか疑われています(注5)。

(注5)企業献金の合憲性については、別の機会に扱うことにします。

 このような問題を抱えながら政党の変革を達成することは難しいといわざるをえないのです。政治過程での変革ですから、それを先導できる政治勢力の理解が必要ですが、上述のように、自民党が一党優位体制をなしており、自民党自身は現在の法制度を変更する意欲がなさそうですから、困難の度合いは容易に想像できます。自民党と対等に競い合える政党の誕生をどのようにしたら実現できるのでしょうか。

 国法秩序の現状には、改革すべきことが多くあり、その一端を本コラムで指摘してきました。今後もこれをつづけ、改革志向の社会となることを期待していきたいと思っております。


■筆者後記
 冒頭の写真は、梅雨時期に魅力的な梔子(くちなし)の花です。


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■著者プロフィール


tomatsu_pf.png 戸松 秀典 憲法学者。学習院大学名誉教授。

1976年、東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了(法学博士)。新・旧司法試験委員、最高裁判所一般規則制定諮問委員会委員、下級裁判所裁判官指名諮問委員会委員、法制審議会委員等を歴任。

●著書等
『プレップ憲法(第4版)』(弘文堂、2016年)、『憲法』(弘文堂、2015年)、『論点体系 判例憲法1~3 ~裁判に憲法を活かすために~』(共編著、第一法規、2013年)、『憲法訴訟 第2版』(有斐閣、2008年)『憲法判例(第8版)』(有斐閣、2018年)、など著書論文多数。

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