2023年10月26日、丸善ジュンク堂書店が主催する「書店員が選ぶノンフィクション大賞 オールタイムベスト 2023」の大賞に、西加奈子さんの『くもをさがす』(河出書房新社)が選ばれた。
『くもをさがす』は、作家の西加奈子さんが、自身の約8カ月にわたる乳がん治療と、その日々の思いをつづったノンフィクション作品。2023年4月の発売後、大きな話題となり、10月26日現在で29万部を超えるベストセラーになっている。
BOOKウォッチの書評はこちら→カナダで、がんになった――。嵐の日々をつづる、西加奈子の初ノンフィクション。
西加奈子さんコメント
書き始めたとき、誰かに読ませるつもりはなく、もちろん出版の予定もありませんでした。今自分に起こっていることを見過ごしたくない、そして、自分自身と間違いなく目を合わせたい、そう思って書き始めたこの文章は、日々形を変え、発声し、生きようとし始めました。今、『くもをさがす』は、たくさんの方の声を得て、たくさんの方の視線を孕んで、ますます強く生きています。そうなるともう、これはすでに私だけのものではありません。私の、私だけのためにあったはずの言葉は、身体の境界を越え、あなたの力を借りて、今、私から離れた場所で、まっすぐに私を見つめています。この文章に、美しい命を与えてくださったことに、心から感謝します。
投票に参加した書店員からは、「2023年を代表するノンフィクション作品はこれしかないと思っていました。西さんの生き方に賛同します」「よわい自分、格好悪い自分と向き合えば向き合うほど、足元が揺らいでしまうのがこわくて、私はいつも途中で目をそらしてしまいます。でも、ありのままの自分を見つめたその先に、大切な人を本当の意味で大切にできるつよさがあるのだと教えてもらいました」などの感想が寄せられている。
11月16日(木)には、大賞受賞を記念して、西さんのトークセッションがオンラインで開催される。
開催日時:2023年11月16日(木)19:00~20:00
聞き手:ジュンク堂書店池袋本店 市川真意
配信URL:https://youtube.com/live/Ws-lV6ho6gU?feature=share
2018年から開催されていた〈Yahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞〉は、運営体制の変更により2023年は開催中止に。そこで、丸善ジュンク堂書店が独自にノンフィクション本フェアを企画し、そのラインナップ46冊をノミネート作品として、他社も含めた全国の書店員約370名により、投票が行われた。文字通り「書店員が選ぶ」ノンフィクション大賞だ。
今回は、ドキュメンタリーやルポルタージュだけでなく、記録文学、自伝、評伝、考察、紀行文、インタビュー集、回想録など広い範囲を「ノンフィクション」と定義し、2023年5月までに刊行されたものすべてを選考対象としている。過去に出版されたタイトルや海外のノンフィクションタイトルに関心をもってもらうため、書店員の現時点までの最推しという意味を込め「オールタイムベスト」と銘打っている。
特設ページに掲載されているそのほかのノミネート作品は以下の通り。
『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』 済東 鉄腸(左右社)
『母という呪縛 娘という牢獄』 齊藤 彩(講談社)
『キリン解剖記』 郡司 芽久(ナツメ社)
『語学の天才まで1億光年』 高野 秀行(集英社インターナショナル)
『それでも食べて生きてゆく 東京の台所』 大平 一枝(毎日新聞出版)
『フェルマーの最終定理』 サイモン・シン(新潮社)
『笑い神 M-1、その純情と狂気』 中村 計(文藝春秋)
『統合失調症の一族 遺伝か、環境か』 ロバート・コルカー(早川書房)
『一度きりの大泉の話』 萩尾 望都(河出書房新社)
『紙つなげ!彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』 佐々 涼子(早川書房)
『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』 加藤 陽子(新潮社)
『謎の独立国家ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア』 高野 秀行(集英社)
『木に学べ 法隆寺・薬師寺の美』 西岡 常一(小学館)
『あしたから出版社』 島田 潤一郎(筑摩書房)
『書籍修繕という仕事 刻まれた記憶、思い出、物語の守り手として生きる』 ジェヨン(原書房)
『タモリ学 タモリにとって「タモリ」とは何か?』 戸部田 誠(イースト・プレス)
『限界ニュータウン 荒廃する超郊外の分譲地』 吉川 祐介(太郎次郎社エディタス)
『深夜特急 新版 1 香港・マカオ』 沢木 耕太郎(新潮社)
『聖の青春』 大崎 善生(KADOKAWA)
『母親になって後悔してる』 オルナ・ドーナト(新潮社)
『サカナとヤクザ 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う』 鈴木 智彦(小学館)
『狂うひと 「死の棘」の妻・島尾ミホ』 梯 久美子(新潮社)
『ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと』 奥野 克巳(新潮社)
『未解決事件グリコ・森永事件捜査員300人の証言』 NHKスペシャル取材班(新潮社)
『全国アホ・バカ分布考 はるかなる言葉の旅路』 松本 修(新潮社)
『みんなが手話で話した島』 ノーラ・エレン・グロース(早川書房)
『ある行旅死亡人の物語』 武田 惇志/伊藤 亜衣(毎日新聞出版)
『ただしさに殺されないために 声なき者への社会論』 御田寺 圭(大和書房)
『「その他の外国文学」の翻訳者』 白水社編集部(白水社)
『オカルト・クロニクル 奇妙な事件奇妙な出来事奇妙な人物 増補新装版』 松閣 オルタ(二見書房)
『墜落遺体 御巣鷹山の日航機123便 新装版』 飯塚 訓(講談社)
『本屋、地元に生きる』 栗澤 順一(KADOKAWA)
『ルポ路上生活』 國友 公司(KADOKAWA)
『旅をする木』 星野 道夫(文藝春秋)
『UFOs 世界の軍・政府関係者たちの証言録』 レスリー・キーン(二見書房)
『ハイパーハードボイルドグルメリポート』 上出 遼平(朝日新聞出版)
『戦後最大の偽書事件「東日流外三郡誌」』 斉藤 光政(集英社)
『きみは赤ちゃん』 川上 未映子(文藝春秋)
『列伝体 妖怪学前史』 伊藤 慎吾/氷厘亭 氷泉(勉誠出版)
『誘拐』 本田 靖春(筑摩書房)
『高熱隧道 改版』 吉村 昭(新潮社)
『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか 上』 増田 俊也(新潮社)
『20代で得た知見』 F(KADOKAWA)
『終止符のない人生』 反田 恭平(幻冬舎)
『もの食う人びと』 辺見 庸(KADOKAWA)
■西加奈子さんプロフィール
にし・かなこ/1977年、イラン・テヘラン生れ。エジプトのカイロ、大阪で育つ。2004年に『あおい』でデビュー。2007年『通天閣』で織田作之助賞を受賞。2013年『ふくわらい』で河合隼雄物語賞受賞。2015年に『サラバ』で直木賞を受賞。ほか著書に『さくら』『漁港の肉子ちゃん』『ふる』『i』『夜が明ける』など。カナダでがんに罹患した際のことを記した『くもをさがす』を今年4月に刊行、29万部のベストセラーに。治療中に執筆していた短編をまとめた『わたしに会いたい』が11月2日刊行予定。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?