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「見える」私たちに「見えていないもの」とは? 『目の見えない白鳥さんとアートを見に行く』が本屋大賞ノンフィクション大賞を受賞

目の見えない白鳥さんとアートを見に行く

 ――あなたは、この世界をどう見ていますか――

 川内有緒さんの『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』(集英社インターナショナル)が、11月11日、2022年Yahoo!ニュース| 本屋大賞ノンフィクション本大賞を受賞した。

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 著者の川内さんは1972年東京生まれの50歳。大学卒業後にアメリカのコンサル会社や日本のシンクタンク、フランスのユネスコ本部などに勤め、国際協力分野で12年間働いた経験を持つノンフィクション作家だ。こう書くと華々しい活躍をしてきた知的な国際派ジャーナリストを想像するが、本書を読み始めて割とすぐに、行き当たりばったりで旅とお酒とおしゃべりが好きな、とっつきやすそうな人、というイメージに変わった。

川内有緒さん(撮影:齋藤陽道)
川内有緒さん(撮影:齋藤陽道)

 川内さんが全盲の美術鑑賞者・白鳥健二さんと出会ったのは、10歳年下の友人、「マイティ」こと佐藤麻衣子さんのこんな一言がきっかけだった。

「ねえ、白鳥さんと作品を見るとほんとに楽しいよ! 今度一緒に行こうよ」

 川内さんは「目が見えないのにアートを"見る"ってどういうこと?」と疑問に思いながらも東京・丸の内の三菱一号美術館へ。「全員巨匠!」というコピーが躍るフィリップス・コレクションを、白鳥さんのアテンドをしながら鑑賞した。ボナールやピカソ、ゴッホといった巨匠たちの名画が、「自分にはどう見えたか」を白鳥さんに言葉で伝えることで、川内さんは今まで「見ていたけれど、見えていなかったもの」に気づいていく――。

 その後も白鳥さんとマイティとともに、日本各地の美術館を巡るアートの旅を続けた川内さん。「見える人」と「見えない人」という単純な構図を越えて、視覚や記憶の不思議、アートの意味、生きること、障害を持つこと、一緒にいることを深く考察する。そこに白鳥さんの人生、美術鑑賞をする理由などが織り込まれ、壮大で温かい人間の物語が紡がれていく。

複雑な社会を受け入れる

 授賞式のスピーチで川内さんは、次のように語った。

「この本はタイトル通りストレートな本で、私たち3人が日本全国の美術館を巡っておしゃべりをする。言ってしまえば本当に"それだけ"の本です。読み終わった後にめちゃくちゃ深い感動を覚えるということもないし、ドラマもスペクタクもありません。

 でも、そういう本が大賞に選ばれたということは、この本をきっかけに、私たちはどういう風に生きたいのか、背景がまったく異なる生き方をしてきた人たちと、どういう風にしたら友達になれるのか、この社会はどうなっていったらいいのかを考えてくれた人がいたからなのではないかな、と思いました」

 むしろ淡々とした日常を描くことで、メディアでの「障害者」の取り上げ方に一石を投じた川内さん。

 「障害がある人がメディアで取り上げられると、困難を乗り越えた、克服したという話が描かれることが多くて、それはそれで素晴らしくて私も心を動かされるのですが、それがあまりにも繰り返され強調されると、障害は乗り越えるべきもので、そのために努力するべきだという考え方が蔓延してしまうんじゃないかな、と思うようになりました。本当にそうなのかなと疑ってみてもいいんじゃないか。そんな思いから、白鳥さんの"ありのまま"を書きました」と語った。

 読む人によっては「美術館は静かな方がいい、会話をする人は迷惑だから受け入れられない」という意見もあったが、「美術館も一つひとつ違っていて、静かな美術館があってもいいし、会話をしてもいい美術館があってもいいのでは」と問いかける。

「これはこうあるべき、という決めつけが、社会の選択肢を減らしてしまい、窮屈な空気感を生んでしまうのではないかと思うことがあります。私たちは、複雑な社会を受け入れるということをしていかなければいけないと思います。」

 川内さんは、白鳥さんと一緒に絵を見ることで、自らの未熟さや偏見、無知に気づかされたと言う。

「生き方、価値観、体や心の在り方。みんな違っていて、私はほかの人になることはできないし、ほかの人が私になることもできません。話し合っても分かり合えない部分が大きいし、分かりたいけれど分かり合えないこともある。その切なさを抱えながら、一緒に生きていく道を探さないといけないな、と」

 「SDGs」や「多様性」といったワードが一人歩きしている感がある今、その本来の意味を深く考えさせられる。文字通り視野が広がる一冊だ。答えのない問いに向き合い続ける川内さんの今後の作品にも期待したい。

授賞式には白鳥さん(左から2番目)とマイティ(右端)も駆け付けた。
授賞式には白鳥さん(左から2番目)とマイティ(右端)も駆け付けた。

 なお、2022年 Yahoo! 本屋大賞 ノンフィクション本大賞にはほかに、以下の5冊がノミネートされた。

朝日新聞政治部』(鮫島浩/講談社)
『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』(鈴木忠平/文藝春秋)
『さよなら、野口健』(小林元喜/集英社インターナショナル)
『ソ連兵へ差し出された娘たち』(平井美帆/集英社)
妻はサバイバー』(永田豊隆/朝日新聞出版)

■川内有緒さんプロフィール
かわうち・ありお/1972年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。日本大学芸術学部卒業後、ジョージタウン大学で中南米地域研究学修士号を取得。米国企業やシンクタンク、フランスの国連機関に勤務し、国際協力分野で働く。2010年以降は評伝、旅行記、エッセイの執筆を行う。『バウルを探して地球の片隅に伝わる秘密の歌』で新田次郎文学賞、『空をゆく巨人』で開高健ノンフィクション賞を受賞。ドキュメンタリー映画『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』の共同監督。



画像提供:ヤフー株式会社


  • 書名 目の見えない白鳥さんとアートを見に行く
  • 監修・編集・著者名川内有緒 著
  • 出版社名集英社インターナショナル
  • 出版年月日2021年9月 3日
  • 定価2,310円(税込)
  • 判型・ページ数四六判・336P
  • ISBN9784797673999

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