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医学部9浪の末、母親殺害......"教育虐待"が引き起こした事件の真実に迫るノンフィクション

母という呪縛 娘という牢獄

「モンスターを倒した。これで一安心だ。」

 深夜3時42分、母を殺した娘はTwitterにそう投稿した。

 2018年3月、当時滋賀医科大学の4年生だった31歳の娘が、58歳の母親を殺害し遺棄した。母親の"教育虐待"、被告の"医学部9浪"という背景もあいまって、事件は世間から注目を浴びた。2021年には懲役10年が言い渡され、刑が確定している。

 この事件を追ったノンフィクション『母という呪縛 娘という牢獄』(講談社)が刊行された。著者の齊藤彩さんは、本書が初の著作となった。


 本書では、被告の娘と被害者の母親は仮名で登場している。

 2018年3月10日、滋賀県野洲川南流河川敷で、両手・両足・頭部のない、体幹部だけの人の遺体が発見された。損傷が激しく捜査は難航したが、最近になって姿が見えなくなっている女性がいることがわかり、身元が判明した。髙崎妙子(仮名)、58歳。遺体が発見された河川敷から徒歩数分の一軒家に、31歳の娘・あかり(仮名)と二人で暮らしていた。

 あかりは妙子に国立大医学部への進学を強要され、過去に9年間の浪人生活を送っていた。そして結局医学部には合格せず、看護学科に進学し、その年の4月から看護師になっていた。

 6月5日、守山署はあかりを死体遺棄容疑で逮捕した。その後、死体損壊、そして殺人容疑で逮捕・起訴した。あかりは一審では殺人を否認していたが、二審では一転して犯行を認めた。

「殺人」が連想できない礼儀正しさ

 齊藤さんが初めてあかりに会ったのは2020年12月23日。あかりは34歳になっていた。拘置所の収容者に面会を申し込んでも、まったく面識のない相手ならば、たいていは本人から辞退される。しかしあかりは、齊藤さんの面会を喜んで受け入れた。

「はじめまして。会いに来てくれてありがとうございます」
「控訴審が結審したときに発表された文書を拝見して、お話を伺ってみたいと思いまして」
 あかりは目をまん丸に見開いた。
「読んでくれたんですか」

 あかりは礼儀正しく、文書や手紙の字も丁寧で整っていた。「殺人」という言葉からかけ離れているように見える彼女は、いったいどのような経緯で凶行へと至ったのだろうか。

 齊藤さんはあかりと面会を重ね、刑務所移送後も膨大な量の手紙を交わして、本書を執筆した。母子の間にあった真実の物語とは。そして二審の被告人尋問であかりがこぼした、大粒の涙の理由とは――。

 齊藤さんは、当時発表したあかりについての記事の反響を受けて、親から意に反した進路や勉学を強いられてきた人の多さに驚いたという。現代を生きる読者一人ひとりにとって、決して他人事ではないと思わせる、親子の相克に迫るノンフィクションだ。


■齊藤彩さんプロフィール
さいとう・あや/1995年東京生まれ。2018年3月北海道大学理学部地球惑星科学科卒業後、共同通信社入社。新潟支局を経て、大阪支社編集局社会部で司法担当記者。2021年末退職。本書がはじめての著作となる。



   
  • 書名 母という呪縛 娘という牢獄
  • 監修・編集・著者名齊藤 彩 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2022年12月16日
  • 定価1,980円(税込)
  • 判型・ページ数四六判・288ページ
  • ISBN9784065306796

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