絵本作家・鈴木のりたけさんの座右の銘は、「おもしろがると世界がひろがる」。その作品を読むと、なにげない日常の一場面にも「おもしろい」の種はひそんでいることに気づかされる。世界が違って見えてくる。
自分にしかできないなにかを探して毎日悩むケチャップの姿を描いた『ケチャップマン』で、2008年にデビュー。以来、ユニークな発想が光る数多くの作品を世に送り出してきた。昨年刊行された『大ピンチずかん』が2023年上半期ベストセラー児童書部門第1位(トーハン調べ)を獲得するなど、その勢いはとどまることを知らない。
中でも注目したいのが、しごとの現場を描いた「しごとば」シリーズと、そこから生まれた、しごとを見つけるまでの紆余曲折を描いた「しごとへの道」シリーズ。人生はまっすぐな道でなくてもいいと思えてくるのだ。
創作の裏側、しごとを見つける過程にスポットを当てる理由など、オンラインでお聞きした。メディアで見ていたとおりの気さくなお人柄。人を惹きつけるオーラが、画面越しにも伝わってきた。
――どちらのシリーズも多彩な職業が登場しますが、どんなふうに選んでいるのですか。
のりたけさん(以下略) 最初はいろいろな職業をくらべることで醸し出されるおもしろさを描きたかったから、とくにこだわりはありませんでした。巻が進むにつれて、子どもたちに人気のある職業や男女比のバランスを考えながら選ぶようになりましたね。
「しごとば」の企画を立ち上げたとき、編集者さんから「のりたけさんの筆が乗ったときに絶対おもしろくなるから、自分がおもしろい、見たい、描きたい、と思う職業を入れたほうがいい」と言われて。気になる職業をちょこちょこ滑り込ませたりもしています。
――興味がある「しごとば」は?
見たこともない道具がいっぱいあるところは、描きがいがありますね。本を開いたときに180度の視野の中、手の届くところに道具が全部そろっていて、現場にダイブした感覚になれる絵を描きたかったんです。
それが時間とともに、世界をもっと広げていきたくなって。最初は道具を描くことに燃えていたのが、道具を使う人たちを取材するうちに、しごとの流れや人のつながりが見えてきて、人への興味が湧いてきました。
「しごとば」に入りきらない話がたまってきたときに、「なるほどね。しごとって、人だよね。その人の生き様だよね」と発見して。そこから生まれたのが「しごとへの道」です。
――半生のいいとこどりではなく、あらゆる感情が描かれているので、のりたけさんと登場する方々の間に信頼関係がないと生まれない作品だと思いました。
そうですね。信頼関係は絶対に崩してはいけないし、題材として描かせてもらっているということを意識するようにしています。
――取材から創作まで、どんなふうに進んでいくのでしょう。
幼少期からフラットに追っていくのではなく、気になることを深く聞いていきます。どの場面をどう描くかのイメージは、取材中は浮かびません。取材に精一杯だから。そこで絵がババッと浮かんで物語がブワーッと構築されたらいいんですけど(笑)。そんなにうまくはいかなくて。
たとえば獣医師の渡邉さんを取材したとき、宇都宮やつくばという地名が出てきたんですけど、僕は土地勘がなくてわからない。そういうときは、取材後にGoogle Earthでその周辺を移動して、イメージを補足していきます。そうすると、画面がバーンと浮かぶときが来るんです。そのときはじめて、物語がズズズズズッとできていく。
――興味の対象が道具から人に移っていった、その心境の変化が「しごとへの道」に表れていますね。
「しごとば」は1つの職業を4ページで表現するので、入りきらなかった情報がいっぱいあるわけです。「その情報を使ってスピンオフ版作らない?」というノリではじまったんですけど、いざやるとなったら、一人ひとりの物語をしっかり描きたいと思って。
この人だからこのしごとを選んだという面もあるし、このしごとをしているからこういう人になったという面もある。取材をする中で、しごととパーソナリティがすごく密接に結びついているなと感じました。
生身の人間は、どんなふうに大事な選択をして生きていくのか。僕が就活をしていたころ、そういうことを教えてくれる本はなかった。偉人伝はあっても、どうしても遠い話になってしまう。隣のおじさんはどうしてこの職業についたとか、感動的な話でなくてもいいからあのころいろいろ知れていたら、と思ったんです。
――それぞれの人生の物語を読んで、紆余曲折してきたのは自分だけじゃないとわかってほっとしました。
いまのしごとだけにスポットを当てると、「わたしはこのしごとをしています」という順風満帆に自分の立場を見つけた人の成功談になってしまう。子どもたちが悩んでいるときに必要としているのは、そういう話ではないんですよね。
――必ずしも一本道を歩いていくとはかぎらないので、子どものころにいろいろな道を見ておくことは、貴重な経験になりますね。
思いどおりにいかないからおもしろい。そんなふうに発想転換できるといいなと思います。
――その言葉は大人にも響きます。
いくつになっても、思いきって新しいことに手を出してもいいんですよ。『しごとへの道1』を読んだ主婦の方から「私もなにかはじめたくなりました」という感想をもらって、嬉しかったですね。子どもも大人も関係なく、人生の本質みたいなところにふれる内容になっていたら、と思って描いています。
■「しごとば」シリーズ(2009年~)
2009年から『しごとば』『続・しごとば』『続々・しごとば』『しごとば 東京スカイツリー®』『もっと・しごとば』『やっぱり・しごとば』の6タイトルを刊行。それぞれ9つの職業をピックアップし、しごとの道具や流れを紹介している。緻密かつダイナミックなイラストは圧巻で、ページの隅々まで見入ってしまう。累計発行部数35万部超。台湾、韓国、中国で翻訳出版されている。
■「しごとへの道」シリーズ(2023年~)
「しごとば」シリーズから生まれた「しごとへの道」シリーズ。第1弾はパン職人、新幹線運転士、研究者、第2弾は獣医師、オーケストラ団員、地域おこし協力隊を収録。幼少期までさかのぼり、三者三様の「しごとを見つけるまでのリアルヒストリー」をコミック仕立てて描いている。「うまくいっても、失敗しても、そのときできることをがんばってやれば、ちゃんと自分の道ができあがっていく。」など、心に留めておきたい言葉があちこちに。紆余曲折を経てきた大人にこそ読んでほしい人生の物語。
■鈴木のりたけさんプロフィール
すずき・のりたけ/1975年、静岡県浜松市生まれ。グラフィックデザイナーを経て、絵本作家となる。『ぼくのトイレ』(PHP研究所)で第17回日本絵本賞読者賞。『しごとば 東京スカイツリー®』(ブロンズ新社)で第62回小学館児童出版文化賞。第2回やなせたかし文化賞受賞。『大ピンチずかん』(小学館)で第15回MOE絵本屋さん大賞2022第1位。作品に「しごとば」シリーズ(ブロンズ新社)、『す~べりだい』『ぼくのおふろ』(PHP研究所)、『ねるじかん』(アリス館)他多数。千葉県在住。2男1女の父。座右の銘は「おもしろがると世界がひろがる」。
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