読むべき本、見逃していない?

アメリカの女子学生が「コンピュータ科学」を敬遠するナルホドな理由

  • 書名 文系と理系はなぜ分かれたのか
  • 監修・編集・著者名隠岐さや香 著
  • 出版社名星海社発行、講談社発売
  • 出版年月日2018年8月26日
  • 定価本体980円+税
  • 判型・ページ数新書判・256ページ
  • ISBN9784065123843

 英語の民間試験が取りやめになり、大学入試が混乱している。将来について改めて悩んでいる高校生や受験生も少なくないだろう。そんな時だからこそ、本書『文系と理系はなぜ分かれたのか』 (星海社新書)を手に取って、進路を熟考してみてはどうだろう。一年余り前の刊行だが、東大駒場の生協書籍部では今も新書ランキングの最上位に入っている。ロングセラーになっているようだ。

もともとは区分けされていなかった

 タイトルからすると、単純なハウツー本のように思えるかもしれないが、中身は充実している。人類の学問史を大づかみにレビューしているからだ。中高生や受験生は、そうした壮大な「知」の歴史の中に自分が学びたい学部を位置づけることができる。

 著者の隠岐さや香さんは1975年生まれの科学史家。東京大学大学院総合文化研究科博士課程満期退学。博士(学術)。現在は名古屋大学大学院経済学研究科教授。2011年には『科学アカデミーと「有用な科学」――フォントネルの夢からコンドルセのユートピアへ』でサントリー学芸賞などを受賞している。

 文系、理系という区分けは日本人には長く染みついている。海外ではそれほど厳格ではないという話を聞いたことがあるが、本書によると、バリエーションはあるものの大筋は変わらないようだ。

 各国が似たような分け方をしているのには理由があるという。そもそも「大学」というのがヨーロッパでできた12世紀ごろはまだ区分けがされていなかった。というのも単純に言えば「理系」については古代ギリシャ時代の知識でストップしており、天動説が支配していたからのようだ。ところが、ガリレオ、コペルニクス、ニュートンなどが登場してくることで、理系の学問が進展する。自然科学が重要な研究対象となり、理系の独立が図られた、というわけだ。産業革命などでさらに拍車がかかる。明治維新後の日本も、そうした先進国の状況を踏まえ、文系、理系のコース分けができたであろうことは推測が付く。

 本書は「第1章 文系と理系はいつどのように分かれたか? ――欧米諸国の場合」「第2章 日本の近代化と文系・理系」でそのあたりを詳しく説明している。

分野適性と性差との関係

 さすがに女性の研究者だなと思ったのは、第4章の「ジェンダーと文系・理系」だ。日本は進路選択の男女差が大きい国なのだという。

 日本の大学における女性の比率は工学部卒業生の場合、1割前後。ところがOECD諸国の平均は26%。韓国でも24%だという。理学部では日本は25%だが、OECDでは約4割。さらに社会科学系卒業生でも、日本は39%。OECDの平均では約6割なのだという。一方、人文科学系は69%を占めてOECDの平均を上回る。

 ただし、この傾向は固定しているわけではない。日本で1985年に社会科学系の学部に進学した女子は1割以下だったが、2000年には27%に上昇して今日に至っている。たしかに、早稲田大の政経学部や一橋大は、かつてはほとんどが男子学生だったが、今は相当様変わりしていることからも、大きな変化がうかがえる。

 こうした進路状況や分野適性と性差との関係があるのかどうか。その議論は長年続いているが、なかなか難しい問題らしい。本書ではいろいろな研究を参照しているが、これはという答えはなさそうだ。

 一つ面白いと思ったのは、アメリカのコンピュータ科学専攻者に占める女子学生の比率だ。1980年代初頭には35%に達していたのに、83年前後から急減し、2010には2割に満たなくなったという。これは家庭用のゲーム機の普及と関係があるらしい。家庭用ゲーム機は「男の子の遊び道具」というイメージが強く、女性を遠ざけることになったという。

東工大に「リベラルアーツ研究教育院」

 本書は「第5章 研究の『学際化』と文系・理系」で、最近の動向についても触れている。要するにこれまでの「文系」「理系」という固定的な住み分けを見直そうという動きだ。日本で1990年代に多くの大学で教養学部が廃止されたそうだが、「復権」の動きもあるという。

 東京工業大学では近年改革をして「リベラルアーツ研究教育院」を立ち上げたという。そこでは学部1年生から人文書を読む数を競ったり、大学院生が授業の一環で社会的課題に取り組んだりするなどのカリキュラムが組まれているそうだ。

 情報化時代の進展で、AIなどが広がってくると、文系といえども情報処理に関した能力がこれまで以上に必要とされることだろう。難関私立文系では入試で数学必須になるところが出始めたという話も聞く。

 そういえば『デジタル・ポピュリズム』(集英社新書)に出ていた話を思い出した。アメリカではすでにビッグデータを分析し、価値あるものにする「データサイエンティスト」という仕事が注目され、かつての「MBA」(経営学修士)を凌駕する花形職種になっているというのだ。数学、統計学、物理学の知識も要求される。ジャーナリズム学科ではデータジャーナリズムのコースが設けられ、法科大学院でもビッグデータ関連の講義があるという。アメリカ発で、日本でもこうした動きが出てくることだろう。それとも、すでに出ているのか。

 BOOKウォッチでは、『AI時代の進路の選び方 「文系?」「理系?」に迷ったら読む本』(PHP研究所)、『理系の学生と学ぶ倫理』(晃洋書房)、『未来のエリートのための最強の学び方』(集英社インターナショナル発行、集英社発売)、『検証 迷走する英語入試』(岩波ブックレット)、『TOEIC亡国論』(集英社新書)、『史上最悪の英語政策』(ひつじ書房)、『オックスフォード&ケンブリッジ大学 世界一考えさせられる入試問題』(河出文庫)、『「地方国立大学」の時代』(中公新書ラクレ)、『日本社会のしくみ』(講談社現代新書)、『京大的アホがなぜ必要か』(集英社新書)、『東大を出たあの子は幸せになったのか』(大和書房)、『東大生の本の「使い方」』(三笠書房)、『海外で研究者になる』(中公新書)なども紹介済みだ。

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