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それじゃ、英語はしゃべれません

史上最悪の英語政策

 かつて英語の勉強で苦労した人は多いはずだ。現代ではITの進化でオンライン辞書が充実、翻訳機能も実用的になっており、スマートフォンひとつあれば、単語のチェックもだいぶラクになった。今後は人工知能(AI)が、さらにランゲージバリアを軽減してくれるだろう。

 ところが教育行政の総元締め、文部科学省にはIT、AIなどは眼中にない。2020年からの「大学入学共通テスト」実施にあたり「グローバル化が急速に進展する中、英語によるコミュニケーション能力の向上が課題」として「聞く」「読む」「話す」「書く」の4技能を「適切に評価」する方針を打ち出した。その「適切な評価」のために、テストではTOEICやTOEFLなどのような民間の資格・検定試験を活用するという。かねてより英語教育施策を批判してきた英文学者の阿部公彦(まさひこ)さんは本書『史上最悪の英語政策』(ひつじ書房)で、文科省の取り組みをバッサリと切り捨てている。

ちゃんと話せないと減点!?

 「これまでの英語教育では、4技能という視点は当然のように踏まえつつ、状況に応じて力点を変えながら学習を進めるという方法がとられてきました。センター試験でもそれぞれの技能を組み合わせた問題が出題されています。2017年度の例で言えば、全問題の半分ほどが、いわゆる会話文を素材にしています。『読解ばかり』などという批判は的外れ」

 著者はこう指摘して、民間業者のテストを採り入れての新テストは受験生にとってはもちろん、その家族にも、また、高校や中学での英語教育の取り組みにも影響が及び、弊害が大きくなることに懸念を表明している。

 TOEICやTOEFLなどに代表される業者試験は、定期的に行われるためその内容はパターン化しており受験回数を重ねるほどにスコア(点数)が上がるとされる。単純には受験料を使った分だけ有利になるといえる。格差を助長することにつながりかねないという。

 「4技能」を適切に評価することが新テストの目的とされるが、著者はなかでも「話す」つまり、スピーキングのテストについて「入試でやる必要があるのか」と、その効果を疑っている。「あまりに問題だらけでかつ理屈も立ちにくい外部試験導入なので、これくらいしか正当化の根拠がないといっても過言ではありません」。推進派のメンバーで、ふだんはスピーキングのコツとして、間違えを気にせずどんどん話そうと指導している英語講師がいることを紹介。「『間違えても大丈夫!』『ジャパニーズイングリッシュでもオッケーよ!』と言っておきながら、しっかり減点するのだとしたら、受験生は大混乱です」と皮肉まじりに述べている。

 文科省はさまざまなレベル、分野で改革を推進中。英語教育については入試に民間業者の資格・検定試験導入することのほか、授業が小学校から実施されており今後に本格化する。それもこれも「中学、高校で6年間英語をやったのに全く話せないのは教育が悪いから」などと世間で繰り返し言われることが大きな理由だ。

なぜか英語だけ求められる「中高6年間」の成果

 それでは小学校から始めて、入試のやり方を変えればいいのか。著者は、そういう単純なことではないという。中高で英語を6年間やったとはいえ、せいぜい週3~5時間。それでは算数と数学を合わせて小中高とどれほどやったのか。「小学校の6年を合わせて12年間、私たちは数字にかかわる勉強をしますが、ごく簡単な計算や、平面や立体の面積の求め方など基本的な知識以上のことを身に着ける人はそれほど多くはないのではないでしょうか」。

 確かに高校では微積分を習うが、文系の場合、社会人になって使う機会はほぼゼロ。英語だけ「中高6年間」の成果が求められることに、何かほかの意図が背景にあることがうかがえる。

 中高6年間に加えて大学、あるいは語学専門校に通うなどしてさらに英語を学んでもなお、うまくしゃべれないと感じている人は少なくない。著者は原因として次の3つの要素を挙げる。「リスニング能力の欠如」「関心の欠如」「知識の欠如」。聞き取れなければ会話はできない、相手に対して関心がなかったり、話題について知識がなければ話は続かない。「インフォーマルな会話ほど難易度の高いものはない。ところが現状行われているのは、『その程度のことができないのは、英語教育のせいだ!』と今の教育を否定するかのような議論です」。

 パターンプラクティスで英語スピーキングを学んだところで、わたしたちが家族や友人らと日本語でするやりとりのように、英語での会話をできるようにはなるものではない。学校で「英語」を学んでも「ペラペラ」になることはあり得ない。留学や海外生活の経験者なら、誰でもそう思うはずだ。英語教育の目指すところを考え直すべきではなかろうか。

 

 英語の新学習指導要領については同時通訳の草分けの一人、鳥飼玖美子さんも近著『英語教育の危機』 (ちくま新書)で手厳しく批判している。

  • 書名 史上最悪の英語政策
  • サブタイトルウソだらけの「4技能」看板
  • 監修・編集・著者名阿部公彦
  • 出版社名ひつじ書房
  • 出版年月日2017年12月25日
  • 定価本体1300円+税
  • 判型・ページ数A5判・160ページ
  • ISBN9784894769120

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