春になって、いよいよ大学生になる。さてどんな本を読んで勉強しようかと考える。そんなとき、ちょっと手に取ってみたくなるのが本書『東大生の本の「使い方」』(三笠書房)だ。
類書は少なくないと思うが、本書は「東大生協書籍部」、つまり東大の中にある書店の主任だった重松理恵さんが書いているから説得力がある。実際にどの本が売れたのか、ロングセラーになっているのか――。
本書のポイントは、売る側からの正確なデータをもとに書かれていること。そのあたりを踏まえ、「東大生協の書店員だけが知っている、頭のいい人の"ちょっと特別な読書のルール"」とうたっている。
・本は"おかし感覚"でまとめ買い ・「口コミ選書」で良書を見つける ・「二番煎じ本」より「原典」に触れる ・「なぜそうなっているのか」「どうなっているのか」を考えながら読む ・「本の種類で」読み方を変える
これは重松さんが気づいた「東大生の本の選び方」の一例だ。そもそも東大生協の本の並べ方は普通の書店とは少し違っている。入ってすぐのところにベストセラーや話題の本を置いていない。その種の本を並べても、たいして売れない。よく売れるのは『人工知能は人間を超えるか』(株式会社KADOKAWA)のような、少し考えさせられる本だ。
東大生は「みんなが買っている」には流されない。「自分で読みたい本や、読むべき本を選べる」人たちだからだという。
こういう優れた読者を抱えているのが東大生協書籍部だから、担当者には気合が入る。勉強もしなければならない。上手に餌を撒くと、学生たちが面白いように食いついてくる。カリスマ書店員も生まれる。
重松さんが東大生協に入ったころの上司がその一人だった。勤続20年、東大の先生の名前は全部知っている。専門書の知識も豊富。東大の生協史上、最も売れた単行本はマイケル・サンデル教授の『これからの「正義」の話をしよう』(早川書房)だが、この本にいち早く着目し、コーナーを作って大きく展開したのもその上司だという。
本書では、「カリスマ書店員は、東大生の知性を陰ながら支えているのです」と控えめに書いているが、見方によっては、東大生を操る「仕掛け人」がいたということだ。重松さんもこの上司も、異動で今は東大生協書籍部にいないのがちょっと残念だ。
全国大学生協連(東京)が2018年2月に公表した調査によると、大学生の53%は一日の読書時間がゼロ。昔に比べれば大学進学率が上がっているので、過去の大学生と単純比較はできないが、残念な数字だ。しかし重松さんによれば、東大生はちょっと違う。月に3~5冊買うそうだ。
本書は「東大生の『選び方・読み方・活かし方』」、「なぜこの本は、東大で売れ続けているのか?」、「東大生が読んでいる『東大本』と『新書』」などに分かれている。最後に「私はこうやって読んできた」という有名OBたちのアドバイスも掲載されている。
冒頭にも書いたように類書はいろいろある。興味のある人はそれらも手に取ってみるといいかもしれない。類書や関連書にも目を通しておくというのが、おそらく東大生の読書術のはずだ。
ところで、本書を読んで、なるほどと思ったのは、東大生協では「スタンフォード」や「ハーバード」の名前を冠した本が良く売れるという事実だ。周知のように各種の世界の大学ランキングでは、オックスフォードやハーバードが最高位にあり、東大はかなり後塵を拝している。国内では「東大」を惹句にすると、注目されやすいが、東大生は「ハーバード」に引っ張られる。その二重構造が勉強になった。
本欄は大学生と読書関連で『書評キャンパスat読書人2017』(読書人刊)、『みちのきち 私の一冊』(弘文堂)なども紹介している。
東大や大学関連では、『東大を出たあの子は幸せになったのか』(大和書房)、『歴史としての東大闘争』(ちくま新書)、『京都大学熊野寮に住んでみた』(エール出版社)、『大学大崩壊』(朝日新書)など。 天才がらみでは 『太陽を創った少年』(早川書房)、『図説 古代文字入門』(河出書房新社)、『ジョン・ハンケ 世界をめぐる冒険』(星海社)、『井筒俊彦の学問遍路』(慶應義塾大学出版会)、『ドナルド・キーン自伝』(中公文庫)、『宇宙はどこまでわかっているのか』(幻冬舎新書) も紹介している。
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