日本語の漢字は中国から借りてきた。したがって日本語の文字のルーツは中国ということになる。さらに漢字の祖先として、中国で発見された大昔の甲骨文がある。
世界を見渡すと、この甲骨文と同じように、現在の文字の「親」や「祖父母」の文字がある。古いものは紀元前3000年以上前にさかのぼる。それらをたどり、わかりやすく解説したのが本書『古代文字入門』(河出書房新社)だ。手軽に古代文字と、それを育んだ文明の概要を知ることができる。
冒頭に世界地図が掲載されている。そこに各地で見つかった多種多様な古代文字と、おおよその使用エリアが図示されている。エジプトのヒエログリフ、古代メソポタミアの楔形文字、中国の甲骨文あたりは聞いたことがあるが、アフリカのメロエ文字やティフィナグ文字、北欧のルーン文字、インドのブラーフミー文字などに至っては初耳の人が多いのではないだろうか。今につながる文字もあれば、歴史の彼方に消えた文字もある。とにかく世界の各地に様々な古代文字があり、研究されていることがわかる。
本書では13の古代文字について、編者の大城道則・駒沢大学文学部教授ら国内の13人の研究者が解説している。内容はさることながら、きわめてマイナーな古代文字まで、よくぞまあ研究している日本の学者がいるものだと驚く。
これらの古代文字の中で、日本の子どもたちにも知られているのはヒエログリフだろう。鳥や蛇の姿がそのまま文字化されるなど、ビジュアル的にわかりやすい。象形文字とも呼ばれる。エジプト関係の大型展覧会では、子ども向けに「ヒエログリフに挑戦」などのワークショップが開催されることがある。自分の名前などを、ヒエログリフで書いてみようというもので、古代エジプトにタイムスリップしたような気分になる。
こうした古代文字の解読に、学者たちは大変な苦労をしてきた。有名なのが1799年にナポレオン軍によって発見されたロゼッタストーンだ。そこにはヒエログリフ、デモティック、ギリシャ文字の3種類の文字が刻まれていた。それをフランスのエジプト学者シャンポリオンが解読し、エジプト文明の研究が大きく進んだ。
本書は、個々の古代文字について、どんな文字か、どうやって解読されたか、をわかりやすく解説している。文字の実例も図示され、近隣の文字との比較も並んでいるので理解の手助けになる。世界各地で独自に、同時並行的に様々な文明が花開いたことがわかる。
マヤ文明には文字がなかったのかと思っていたが、立派な文字があったこと、フェニキア文字はかつてアルファベットの起源といわれていたと記憶するが、現在ではその説は支持されていないことなどは本書で知った。
終章ではまだ解読されていない古代文字についても列挙されている。インダス文字、原エラム文字、インカのキープ(結び目文字)などだ。編者は「我々も第2のシャンポリオンになれるかも」と研究者を鼓舞する。
シャンポリオンは20歳の時に、すでに10数か国語を解したという語学の天才。欧米には時々そういう人がいる。日本文学研究者のドナルド・キーンも大学入学までに飛び級を重ね、10か国語ぐらいは学んだという。太平洋戦争で、日本の暗号解読で活躍したのは、英国のオックスフォードやケンブリッジで古代言語を研究していた語学のエキスパートたちだった(『太平洋戦争 日本語諜報戦』)。日本でも、西夏文字を解読した西田龍雄博士がいるし、イスラム学者の井筒俊彦博士も多言語学者として有名だった。これらのタイプの異能の人が解読するのか、それとも今の時代、人工知能(AI)が先んじるのか――。
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