本書は『宇宙はどこまでわかっているのか』(小谷太郎著、幻冬舎新書)というタイトルだが、取り上げている分野は、惑星天文学、宇宙論、X線天文学から分子生物学、数学の「ABC予想」まで幅広い。著者は元NASA研究員。
そんな中で、評者がとくに面白いと思ったのは、重力波検出の話題だ。
現代の宇宙論は、アインシュタインが約100年前に発表した一般相対性理論(万有引力の法則に代わる重力理論)から始まり、その式からブラックホールやビッグバンが導き出され、重力波の存在も予言されていた。だから、重力波の検出はアインシュタインが残した宿題だった。
その重力波を、2015年9月14日9時50分45秒、アメリカが建設した重力波検出用の巨大アンテナシステム「LIGO(ライゴ)2」が初めて検出に成功した。この重力波は、約13億年前に宇宙の彼方で起きたブラックホール同士の衝突・合体によって引き起こされたものだった。
「LIGO」を構築し、重力波の初の観測に成功した米マサチューセッツ工科大学(MIT)のワイス博士、カリフォルニア工科大学のソーン博士、バリッシュ博士は2017年度のノーベル物理学賞を受賞した。ノーベル賞は研究発表から授賞までの期間が長いことで知られ、「ノーベル賞をとりたければ、長生きでなければならない」といわれているが、これは過去最短の早さだった。
重力波検出用のアンテナシステム「LIGO(ライゴ)」の建設には、試作機のLIGO1だけで3億ドル超、本番用のLIGO2も合わせると10億ドルといわれている。
かつて科学記者をしていた評者は1号基の建設現場を見学したことがある。案内してくれた建設所長は「観測施設はアインシュタインから私達への贈り物。かなり金はかかるが、贈り物とはそういうものだろ」と言っていた。重力波を検出したときLIGO2はまだ試運転中で、本格運用の2日前だったのだから、関係者にとってはまさに天からの贈り物だった。
LIGO2はその後も活躍しており、2017年8月17日12時41分04秒には、中性子星同士の衝突を捕らえた。これまで金や銀、白金など鉄より重い重金属類は、ほとんど超新星爆発で作られたものだと考えられていたが、この観測から、中性子星同士の衝突によってもっとたくさんの金属が作られていることがわかったという。
2018年3月に亡くなったホーキング博士のことも取り上げている。同博士は、まだブラックホールの実在が疑われていた1960~70年代に、ブラックホールの性質を明らかにして研究をリードした天才だった。筋萎縮性側索硬化症で車いす姿が知られているが、気性はけっこう激しく、怒って学生の足を車いすで轢いたこともあったという。自分の口でしかることもできず、手を挙げることもできない博士にしてみれば、車いすでの実力行使もやむを得なかったのかもしれない。
このように、最近ニュースになった、物理、天文学を中心に、最先端の話題を、素人向けのエピソードも交えながら、分かりやすく簡潔に紹介しており、この分野の知識をアップデートしておきたい学校の先生方などには一読をお勧めしたい。
本欄では関連で『重力波発見!』(新潮社)、『天の川が消える日』(日本評論社)、『ホーキング博士』(宝島社)、『世界を変えた50人の女性科学者たち』(創元社)なども紹介している。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?