実務にも学習にも役立つというのがうたい文句だ。本書『詳解 相続法』(弘文堂)は600ページを超える専門書。当然ながら法曹関係者や法律を学ぶ学生向けだが、一般の読者にとっても無関係とは言えない。「相続」は多かれ少なかれ、かなりの人が実際に経験することだからだ。街の書店で実用書を購入したが、簡単すぎて物足りない、我が家のケースが見つからない、もうちょっと上級向けの知識が欲しい――そんな人には大いに参考になりそうだ。
2018(平成30)年7月6日に相続法改正が成立した。残存配偶者に対して、それまで住んでいた家の居住権を保護したり、相続人以外の特別寄与者の貢献を考慮したり、自筆証書遺言のやり方が変わったりするなど、いくつかの新しい制度が盛り込まれた。その法制審議会民法(相続関係)部会委員だった潮見佳男・京都大教授が、新しい相続法について、改正内容も含め、とことん詳しく解説したのが本書だ。「信頼のおける基本書」と出版元は胸を張る。
人が亡くなったら遺産相続が発生する。分け方をめぐって家族や身内でいさかいが起きることもある。苦労した人は少なくないだろう。いろいろなケースがある。被相続人に配偶者と子どもがいる場合、子どもが複数の場合、子どもはいないが配偶者と親がいた場合、子どもや孫、親や祖父母などもいない場合などなど。簡単に処理できるケースもあれば、複雑な親族関係ですぐに答えが出ないこともある。そもそも遺産の全体像を誰がどうやって計算するのかも悩ましい。
というわけで、本書はいろいろなパターンについて実に詳細に解説している。全部で642の具体的例が掲載されている。
「相続制度」「相続の開始」「相続人」「相続資格の具体的確定」「相続人の不存在」「相続財産の包括承継」など15章にわけて説明している。新制度の「配偶者居住権」については第10章でかなりのページを使って紹介されている。
「Aが死亡し、妻Wと子X・YがAを相続した。Wは、Aが所有する甲建物に居住してきたが、Aの遺産の分配をめぐり、W・X・Yの間で対立が生じている。Yが反対する中で、Wは、現在もなお、甲建物に居住している」
このケースだけでも、ややこしい。さらにXが夫の連れ子だったり、甲建物が賃貸物件だったり、Aが遺言を残していたり、AとWが内縁関係だったりすると、トラブルがどんどん複雑系になる。場合によっては弁護士の出番にもなるが、弁護士費用は安くはない。本書にはこの「配偶者居住権」だけでもかなりの事例が収められている。心配な人は、あらかじめ見ておくと、ケーススタディを通して心づもりができそうだ。
かつて法律の専門書と言えば、箱入り本でいかめしかった。本書は昔の学習参考書の「チャート式」のような体裁になっている。少しでもとっつきやすいものにしようとする編集者の努力が感じられる。とはいえ中身は専門的だ。一般読者としては、見出しや索引などを見ながら関心のあるところを辞書的に拾い読みするとよいかもしれない。定年になって暇なシニア読者なら、認知症予防と、イザという時への備えで一石二鳥の効用がありそうだ。
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