今年(2018年)9月、九州大学で火災が発生した。元大学院生が放火し自殺したと見られている。本書『大学大崩壊』(朝日新書)の著者で教育ジャーナリストの木村誠さんは、元院生が他の大学の非常勤講師を雇い止めになって無給状態に陥ったことやキャンパスの移転によって研究室が使えなくなったことを悲観したのではと推測している。「日本の大学の内部の絶望が浮き上がってくるようだ」とこの事件に言及する。
木村さんは学習研究社で「大学進学ジャーナル」編集長などを務め、長く大学を取材してきた。18歳人口の減少とともに日本の大学全体が崩壊の危機にひんしているという危機感から本書を書いたという。
大学の劣化は研究力の低下に現れているとして、毎日新聞の記事(2018年9月3日付)を紹介している。「粗悪学術誌 日本から5000本」「東大や阪大 論文投稿 業績水増しか」の見出しで、質の悪いインターネット誌「ハゲタカジャーナル」としてアメリカの研究者にリストアップされていた中国のオープンアクセス型のネット雑誌に日本の有力国立大学の多くの教員が論文を投稿していたというのだ。通常、学術論文は投稿しても「レフリー」役の他の研究者や高い専門性を持つ編集部が「査読」し、掲載・非掲載を判定する。著名な雑誌ほど、そのハードルは高く、簡単には掲載されない。そこで「出せば載る」状態の「ハゲタカジャーナル」に投稿する学問上のモラルハザードが起きたのだ。
木村さんは、国が論文採用数を重視して科学研究助成基金助成金(科研費)など「競争的資金」で国立大学教員を煽り立てているからだと指摘する。
2004~05年に国立大学法人化と運営費等交付金の毎年1%削減が始まり、この頃から日本は中国に「他の論文への引用数が世界トップ10%に入る論文数」という指標で追い抜かれ、差は広がる一方だという。要は国が研究力低下の原因を作ったのだ。「財務省や文部科学省が『選択と集中』によって交付する競争的資金獲得の対策に、研究時間を割かれている」と国の責任を追及する。
国の政策によって大きな影響を受けたのは国立大学ばかりではない。文部科学省が入学定員の厳格化を求めるようになり、首都圏の私立大学は軒並み入学が難化したという。そのため早慶→MARCH(明治・青山学院・立教・中央・法政)→日東駒専→とドミノ倒しのように受験生が流れ、一部の定員割れ大学では充足率が回復した。しかし、若者の東京23区集中の抑制という国の狙いは地方までは波及していないと木村さんは見ている。
私立大学は2018年度に40%が定員割れで、収支も赤字のところから大学崩壊に進むと見られる。定員割れ地方私大の究極の救済策として各地で公立化が進んだが、新潟産業大学について今年(2018年)地元・柏崎市が要請を拒否。初めて挫折するケースとなった。
一方、地方でも充足率が100%を超える私立大学も少なくない。本書では全国68大学を一覧表にまとめている。地域貢献で知られる長野県の松本大学や佐久大学、ユニークな学部で学生を集める滋賀県の長浜バイオ大学やびわこ成蹊スポーツ大学、アジアからの留学生を集める大分県の立命館アジア太平洋大学、地元密着型の校風で就職率もいい松山大学などを紹介している。
木村さんは「大都市のマンモス私大では難しい地域貢献の取り組みによって、各地方大学はサバイバルしようとしている。それを支えることが地方創生につながるのである。地方の小さな私立大学が元気になれば、大学崩壊は免れる」と地方の私立大学の取り組みに期待している。
本欄では、揺れる大学の現状について『「大学改革」という病』なども取り上げている。
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