「ジビエミステリ」と銘打った本書『みかんとひよどり』(株式会社KADOKAWA)。鹿や猪、熊などの鳥獣による農作物への被害が増え、最近狩猟や駆除のニュースをよく目にする。多くは土に埋めたり焼却されたり処分されるが、ジビエ料理のブームのおかげでいくらかは我々も口にすることができる。本書を読み、その背景にある事情がいろいろわかった。
主人公の潮田亮二、35歳は京都でジビエ料理も出すフレンチレストランのシェフをしている。フランスで修業し日本に帰ったが、雇われシェフとして二軒つぶし、自分ではじめた神戸の店も失敗して借金をつくった。大阪の24時間営業のレストランで深夜に働き、なんとか借金を返した。たまたま出したヤマシギのローストを食べた澤山オーナーに認められ、継続的に好きなジビエ料理を提供する条件で店を任せられたのだ。
売っている素材だけでは満足できない潮田は、狩猟免許をとり猟犬とともに冬の山に入るが、遭難し死を意識する。そこへ現れ助けたのが猟師の大高だ。鹿や猪を見事にさばく大高の腕前を知り、潮田はジビエを売ってくれ、と頼み込む。
一人で世捨て人のように暮らしている大高は申し出を断る。不特定多数に提供する肉は、設備の整った処理場で解体しなければならないのだ。面倒を嫌がる大高だったが、家が火事になり金がいるので、野鳥なら売っていいと潮田に約束する。ヒヨドリや野鴨で冷蔵庫はいっぱいになり、お客も増え始めた。そんな矢先、フランスの料理学校で劣等生だった風野が店に現れる。大阪で大きなレストランのオーナーシェフになっていた。風野もまたジビエに興味を示す。
この後、大高の周辺で不審なことが相次ぎ、ミステリの様相を呈する。しかし、さまざまなジビエ料理が登場、おいしそうな肉のにおいとソースのかおりが作中にただようので、読者はそれどころではないかもしれない。
シェフとしては失敗つづきだった潮田は、さまざまな人とのかかわりの中ですこしずつ成長してゆく。ジビエに関心のある人なら、楽しく読むことができるだろう。設備の整った処理場が増え、もっとジビエが普及することを期待したい。駆除された獣たちも命あるもの、ゴミのように処理するのはしのびないことだ。
著者の近藤史恵さんは、1993年『凍える島』で第4回鮎川哲也賞、2008年『サクリファイス』で第10回大藪春彦賞を受賞している。
本欄では狩猟やジビエ関連として、『息子と狩猟に』(新潮社)、『ニッポンの肉食』(ちくまプリマー新書)、『ジビエの歴史』(原書房)などを紹介している。
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