『ニッポンの肉食』(ちくまプリマー新書)は、日本人と肉食について、歴史や現状をわかりやすくまとめたものだ。副題にあるように「マタギから食肉処理施設まで」と幅広い。
著者の田中康弘さんは1959年生まれのフリーカメラマン。秋田のマタギを中心に、礼文島から西表島まで日本各地の農林水産業の現場を取材している。
田中さんはこれまでに『猟師が教える シカ・イノシシ利用大全 絶品料理からハンドクラフトまで』『日本人は、どんな肉を喰ってきたのか?』『マタギ 矛盾なき労働と食文化』『山怪 山人が語る不思議な話』など関連書を何冊も刊行している。特にマタギに関して詳しく、取材が30年に及ぶという。
本書ではまず、日本人にとって肉食が近年始まったのではないことを強調する。旧石器時代の遺跡からは、シカなどを捕獲するための「落とし穴」が見つかっている。縄文時代の日本列島の遺跡で見つかる人骨の成分は、最新科学の分析によって、肉食動物に近い。稲作全盛の弥生時代においても、土器にはシカを射る場面が描かれ、肉食は日常的だったと見る。
その後に渡来した仏教による戒律で、肉食は規制されたと言われているが、田中さんは、そう単純ではなかったと考える。というのは、繰り返し、「肉食禁止令」が出されているからだ。7世紀から8世紀にかけては8回も出ている。それだけ、食べている人が多かったということだろう。ウシ、ウマはもちろん、イヌやサルも禁止対象になっている。古代の人たちは、しっかり食べていたのだ。
田中さんはカメラマンとして全国の山を歩いているので、畜産よりも狩猟に関連した話が興味深い。たとえば、タヌキ。ある猟師は「タヌキは美味い」といい、別な猟師は「絶対に食べられない」という。動物園のタヌキの檻に近づくと分かるが、かなり強烈な悪臭がする。この臭いに我慢しながら本当に食えるのか。
ここから先がなるほどと思った。タヌキと、アナグマやハクビシンを間違えている、本物のタヌキは臭いが、アナグマやハクビシンは美味いという説。しかし、プロの猟師が間違えるのかと疑問を持つ。ここからがややこしいのだが、地域によってはタヌキやアライグマをムジナと呼ぶ、ハクビシンも含まれる、だから「同じ穴のムジナ」というとか、それぞれ夜行性なので、間違えやすいとか。そもそもムジナという動物は存在しないとか。
多少脱線しながら、著者がたどり着いた結論はこうだ。若いタヌキは臭いがほとんどなくて美味い。これが成獣だと臭くなる。どちらを体験したかで、「タヌキは美味い」派と、「食えない」派に分かれるというのだ。
こうした実体験話が満載なので、本書を入門編に、著者によるもっと詳しい本を読んでみると面白いかもしれない。
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