読むべき本、見逃していない?

北朝鮮女性と韓国男性をマッチング、なんと500組

  • 書名 脱北者たち
  • サブタイトル北朝鮮から亡命、ビジネスで大成功、奇跡の物語
  • 監修・編集・著者名申美花 (著)、 解説・姜尚中
  • 出版社名駒草出版
  • 出版年月日2018年5月30日
  • 定価本体1600円+税
  • 判型・ページ数四六判・276ページ
  • ISBN9784905447924

 興味深い話が満載だ。本当にこんなことが起きているのかと目からウロコ。本書『脱北者たち』(駒草出版)はちょっとした衝撃の一冊だと思う。

 脱北者に関する本というと、北朝鮮の圧政、悲惨な生活、密出国の苦労話が定番だが、本書は副題にあるように「北朝鮮から亡命、ビジネスで大成功、奇跡の物語」について詳しく書きみ、意外性がある。「脱北者」についての画一的なイメージを一新する本だ。

飲食業のチェーン店

 脱北者の一人、1974年生まれのキム・スジンさんは、北朝鮮では恵まれた階層の出身。貿易会社で働いていた。仕事能力を評価され、32歳のとき、海外出張ができるパスポートが与えられる。仕事で中国に行って長期滞在するうちに、出張先で亡命する人が少なくないことを知った。

 キムさんも脱北、韓国へ。ガソリンスタンドの店員、雑貨屋、ネットビジネスなどを経て、新たに始めた結婚仲介サービスが大当たり。韓国では「南男北女」という言葉があり、家庭的で生活力もある北朝鮮の女性に人気がある。脱北者の中には女性が少なくない。韓国男性と、脱北の北朝鮮女性のマッチングでこれまでに500組近いカップルを誕生させたというから驚きだ。

 ほかにも、中国から栗を輸入する会社を立ち上げ、2011年度下半期中小企業ブランド大賞を受賞したシン・ギョンスンさん、テレビのお笑い芸人になって知名度を上げ、本場の味を再現した「故郷冷麺」のチェーンを展開するなど飲食業で成功したチョン・チョル氏、自作の詩を胸に脱北、その詩集を韓国や日本で出版する一方、韓国で北朝鮮情報のニュースサイト「NEW FOCUS」を設立、内部情報をもとに変貌する北朝鮮について発信し、韓国メディアでも引用される機会の多いチャン・ジンソン氏など、脱北後に逞しく生きる人たちが次々と登場する。

 韓国に住む脱北者はすでに3万人に上り、調査によると、その中の2%余りが起業しているそうだ。登場する脱北者は、目立った成功例とはいえ、後に続く人が少なくないことをうかがわせる。

「脱韓者」としての視点

 本書がユニークなのは、脱北者たちの意外な姿が描かれているというだけではない。取材し、執筆している申美花さん自身の経歴にもよるところが大きい。韓国出身。奨学生として1986年に来日して一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。アイ・アールジャパンで4年間勤めたあと、幼児二人を連れてニューヨークに留学、現在は茨城キリスト教大学経営学部教授を務めている。

 この経歴だけ見ると、留学して日本で成功した一人、と思われがちだが、申さんは自らを「脱韓者」と規定する。なぜなら、朴正煕、全斗煥政権下で青春を過ごした申さんは、徹底的に「反北教育」を受け、「北朝鮮は敵」と信じ込んでいたからだ。少女時代、学校では必ず反共映画が上映され、韓国軍人が北朝鮮軍を殺すシーンでは、生徒たちは歓声とともに熱烈な拍手を送った。しかし大学生になったころ、民主化闘争が起きる。韓国と北朝鮮は、程度の差こそあれ、恐ろしい国家権力によって統制された国だということを痛感した。「女性差別」がひどい韓国社会にも我慢できなかった。

 そうして「脱韓者」として韓国を離れ、日本に来て、さらに米国も知る。したがって「脱北者」を見る目には、自らも国から逃げた者としての共感がある。加えて日本、米国の体験が重ねられていることで、対象を見る視点が複眼化、複々眼化されている。

 解説で、姜尚中・東京大学名誉教授は本書について、「奇をてらった『脱北者』のルポやドキュメンタリーの類よりはるかに抜きん出ているのは、『脱北者』たちの来歴を語る本書の著者が、単なる体制批判を超えて、グローバル化の時代を生きる新たなアイデンティティの可能性を提示しているからである」と書いている。

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