読むべき本、見逃していない?

TOEIC920点だけど「仕事の英語はムリ」

TOEIC亡国論

 英語教育をめぐって2年後に、大学入試での新テスト導入や小学校での「英語」教科化など、大きな変更の実施が控えているせいか、このところ、関連本の出版が増えている。本書『TOEIC亡国論』(集英社)は、いまや英語能力を評価する標準にもなっているTOEIC(トーイック)が、それ自体が攻略すべき目的であるかのような存在となっていることを指摘。英語教育そのものが迷走状態に陥っているという。

 TOEICを拠りどころに誤った人材選びしている役所や企業、学校、それに、TOEICのスコアアップを至上命題に英語力の向上を目指す人たちに向け、そろそろTOEICに振り回されるのをやめてみませんか、と呼びかけている。

大学入試の英語で4技能、小学校では教科化

 東京オリンピック・パラリンピックの翌年、2021年1月には、前年までのセンター試験に代わって「大学入学共通テスト」になる。英語のテストでは、それまでの「読む」「聞く」に加えて「話す」「書く」の試験が実施されることになっており、4技能評価を行っている民間の検定試験が活用される予定。

 共通テストで使われる民間の検定試験としてTOEICも候補の一つ。大学入試に4技能評価のために民間検定を導入することについては『史上最悪の英語政策』(阿部公彦著、ひつじ書房)や『英語教育の危機』 (鳥飼玖美子著、ちくま新書)などで、英語教育の専門家らが強く批判している。その理由として、前書では、TOEICで試される英語が「単純労働で使われる英語が中心。考えるための英語や、感情の機微を伝えるための英語などは入っていない」ことなどを挙げている。

 本書によると、TOEICは大学生の英語能力判定を目的に広く採用されている。大学によっては、TOEICで一定のスコアを取ると授業を受けなくても英語の単位を授与しているという。大学院でも英語能力判定のツールとして、また、修了資格としてTOEIC受験を義務付けるケースが増えてきており、入試の際に一定のスコアを持っていれば英語の試験が免除されることもあるという。こうしたTOEICの活用、浸透にともなって、必要とされる英語能力が向上していれば、入試導入の反対論や本書のような亡国論も出てくる余地はないのだが...。

 著者は「経験から言えば、たとえ900点を取っていても、例えば経済学の原書をある程度のスピードで正確に読める保証は全くないし、逆にTOEICが600点もそれができる学生もいる」として、大学、大学院によるTOEICをめぐる措置に首をかしげる。「学生が本来必要としている英語力とTOEICの関係をまったく理解していないピント外れと言わざるを得ない」

 TOEICは990点満点。スコア900を超えれば英語が相当できると判断されることが多い。

英語と別の受験テク

 著者はさまざまな言語の翻訳や研修事業を行う外国語研究所の代表。外国語のトラベル会話や英語、スペイン語などについての著作が数多くあり、03年に出版した「語学で身を立てる」(集英社)は、語学をいかした就職・転職を目指す人たちのバイブル的存在になっているという。

 語学のプロである著者からみれば、TOEICでハイスコアを得ても、それは「英語ができる」ことを意味しない。受験テクニックを磨けばかなりの程度の成果が期待でき、そうして得たスコアは客観的な能力評価と必ずしも同レベルとはならないからだ。

 TOEICテストは1年10回だから、ほぼ毎月1度のペースで実施されており、繰り返して受験ができる。企業や大学などが受験を奨励していることもあり、書店の外国語学習コーナーではTOEIC対策本のセクションが大きなスペースを占めている。専門学校にはレベルに合わせたTOEIC用のコースが用意され、インターネットを使った通信教育もある。これらで傾向と対策をしっかり仕込めば、英語能力の向上にもつながりはするだろうが、結果のスコアは英語の即戦力、本当の実力を反映したものとは異なる。評者の周辺でも「TOEIC920点だけど、仕事で英語を使うのはムリ」と公言している女子がいる。

本書では企業人事部担当者の、こんな嘆きも紹介されている。

 「TOEIC高得点の学生を国際部の要員として採用したところ、実際には英文メールは書けない、会話はできないで人事部にクレームが入った。英語ができる人材をほしいと思ったら、その企業はTOEICに関係なく、メールを書かせる試験や、英語による面接試験をやらないとだめですね」

 TOEICの正式名称は「Test of English for International Communication」で、日本語では「国際コミュニケーション英語能力テスト」。英語を母語としない人を対象に英語でのコミュニケーション能力を測るための試験で、日本の経団連などの要請を受けるかっこうで、米非営利団体「教育試験サービス(Educational Testing Service)」が1979年に開発した。日本がきっかけになって生まれた検定試験ということもあってか、日本での浸透度が最も高く、2016年の受験者数約271万4300人で、同年の世界の受験者数の約4割を占めたという。著者はこの点で、主催者側がいう「グローバルスタンダード」について疑問を呈している。

 「英語ができる」ということは、本書でも指摘されているが、個人の仕事や生活などによって異なるもの。日常生活に必要な会話能力とビジネス交渉に欠かせない語彙は別ものだ。シーンによって求められる英語力は異なるにもかかわらず、英語力としてひとくくりにしてTOEICで測るのは合理性を欠く。本書の後半では、TOEICを離れ、英語が身につく勉強法を紹介している。

  • 書名 TOEIC亡国論
  • 監修・編集・著者名猪浦道夫
  • 出版社名集英社
  • 出版年月日2018年3月16日
  • 定価本体740円+税
  • 判型・ページ数新書・224ページ
  • ISBN9784087210231

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