2020年度から大学入試が大きく変わるということで、関連本が目立つ。本書『AI時代の進路の選び方 「文系?」「理系?」に迷ったら読む本』(PHP研究所)もその一冊だ。
類書と異なるのは、「AI時代」を念頭にガイダンスをしていることだろう。もはや旧来の「理系」「文系」の区分けは意味をなさない、という。
著者の竹内薫さんは1960年生まれ。東京大学理学部卒業、マギル大学大学院博士課程修了の理学博士。ノンフィクションとフィクションを股に掛ける猫好きの科学作家と自称している。
『ホーキング 虚時間の宇宙 ―宇宙の特異点をめぐって』(講談社ブルーバックス)、『素数はなぜ人を惹きつけるのか 』(朝日新書)など多数のサイエンス関係の入門書がある。『理系バカと文系バカ 』(PHP新書)、『文系のための理数センス養成講座』(新潮新書)など、理系や文系に関する本も目立つ。一方で、『学年ビリから東大へ進み、作家になった私の勉強法』(PHP研究所)、『自分はバカかもしれないと思ったときに読む本』(河出書房新社)など、劣等生でも心が休まる本も書いている。
これら過去の出版物を見て推測がつくように、本書は、著者が得意とする「理系」「文系」論の延長線上にあって、「ホーキング」に興味がある物理大好き少年にも、「自分はバカ」だと思っている落ちこぼれ文系にも目配りした内容となっている。
一読してすぐにわかるのは、この著者はバカではないということだ。説明が非常に理詰めですっきりしている。実際のところ、頭がいいのである。著者が「学年ビリ」だったのは、ニューヨークの現地小学校に転校した時(小学3年生)と、ニューヨークから東京の公立小学校に転校した時(小学5年生)だそうだから、余り参考にならない。どんな秀才でも、ビリになり得る瞬間だ。
そもそも著者は、周囲のすすめもあって、東大ではまず文Ⅰに入った。いわゆる法学部コース。しかし、法律の勉強が肌に合わず、元々物理が好きだったこともあって、進級時は教養学部の科学哲学コースを選ぶ。その後、改めて理学部の物理学科に学士入学し、カナダの大学院では哲学を勉強していた時期もあるという。自身の大学・大学院生活が、すでに「文系」「理系」を行き来している。
ということで、通常の理系出身者よりも文系に詳しい。もちろん文系出身者に比べると、理系の知識は比較にならない。そうしたベースの上で「理系」「文系」のことを書いている。
著者は、まず現状において、理系、文系に迷っているような人には、理系に行くことをすすめる。いったん理系に行ってから文系に行くことは比較的容易だからだ。
評者も東大の理Ⅰや理Ⅱから文学部や教養学部に進級した人物を何人か知っている。逆に、文系から理系へのストレートな進級は難しい。竹内さんも教養学部を経て何とか理学部に移ることができた。
このあたりまでは、いわば常識的なガイダンス。2020年度から、現行の「大学入試センター試験」が廃止されて「大学入学共通テスト」に移行し、その後も大学入試制度は段階的に変わっていく。24年ごろには「情報」が試験科目に入ってくるらしい。
著者は10年後、15年後を見据えている。「AI時代」に「進路の選び方」をどうするか。
AIの存在感が高まっていく中で、世の中が大きく変わり、これまで人間がやっていた仕事がAIに取って代わられるといわれている。公認会計士のようなハイレベルの資格を得ても、AIに代行され、失業のリスクがある。今の小中高生が間もなく直面することになるのは、そうしたAI支配の世の中だ。
というわけで著者は、新時代に生き残れる能力を身に付けることの大事さをくり返す。いろいろなことが書かれているが、要は「自分のアタマで考える力」を身に付けるということだ。これは『君たちはどう生きるか』(岩波文庫)などでも強調されている。
実際、すでに単純作業ではなく技術が尊ばれていた職人的な仕事にもAIが進出してきている。ロボットが調理を担当する大衆料理の飲食チェーン店、どんな文様もロボットが短時間で自在にこなすネイルショップ・・・。
迫りくる新時代は、まさに明治維新並みの激変を伴うという。今後の区分けはもはや「理系」「文系」ではなく、「コンピュータ系」「非コンピュータ系」、「グローバル系」「国内系」という区分になると著者は強調する。維新によって武士は一気に職を失った。「現代の武士」がやっている仕事を選んではならない。逆に言えば、新たなるチャンスが到来するともいえる。
本書を読みながら、ふと思った。「もしも今、私が中高校生だったら、こういうふうな勉強をする」。そんなタイトルでAIに詳しい有名人のガイド本をつくれば受けるかもしれないと。まずは、著者に第一弾を書いていただこう。令和の時代、無駄な努力をいくたやっても「0+0+0・・・=0」にしかならないのだ。
関連で本欄では、『教育激変』(中公新書ラクレ)、『君たちはどう生きるか』(岩波文庫)、『検証 迷走する英語入試』(岩波書店)、『マンガでわかる デキる人は「数字」で伝える』(幻冬舎)、『「考える力」を伸ばす』(集英社新書)なども紹介している。
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