中高生や大学受験生の親でもなければ、あまり「新テスト」と聞いてもピンとこないだろう。2020年度、21年1月から従来の「センター試験」に代わってスタートする「大学入学共通テスト」いわゆる「新テスト」のことである。
現在の高校2年生から受けることになるが、その影響は今年の大学入試や私立中学入試に早くも出ているという。大学入試では浪人回避の傾向と私立大学の定員の厳格化の影響もあり、中堅の私立大学が難化した。また、どのような試験内容になるのか不安を感じている親が多いため、中学入試ではエスカレーターで進める大学附属校の志願者が増えた。
最近の新聞報道でも「新テスト」のプレテストをしたところ、記述問題が多いため、想定よりも正答率が低かったり、自己採点が不正確になったりしたため、センター試験のように高い精度での出願が難しくなるのではと懸念されている。
本書『教育激変』(中公新書ラクレ)は、なぜ新テストが導入されるのか、その背景から予想される事態に踏み込んだ本である。著者の池上彰さんと佐藤優さんは、それぞれジャーナリストと作家という仕事のかたわら、池上さんは東京工業大学など8つの大学で、また佐藤さんは同志社大学神学部などで教壇に立っている。いまの大学生の実態に詳しい二人が対談の形で議論を進める。
制度改革の解説も歴史的な経緯を含め、たっぷり書かれているが、面白いのは二人が実際新テストのプレテスト(高校2年生が対象)を解き、「全体としてはいい問題」(佐藤)、「少なくとも国語に関しては、画期的と評してもいいくらい」(池上)とともに高く評価していることだ。
良問が多いが、正答率が低かったため、高校関係者からは問題視された。しかし、池上さんは「日ごろから新聞を読んでいるような小学六年生ならば、丁寧に考えていけば解ける問題なんですよ」と語っている。暗記だけでは対応できない思考力が求められているという。
英語に関して、佐藤さんは「話す」能力を測る必要があるか疑問視している。バイリンガルな環境にいた一部の受験生が有利になるので公平性に欠けるというのだ。
両氏ともポストモダンの世の中になり、それを生き抜くために求められる力は以前とは違うというメッセージを試験問題そのものが伝えていると指摘する。
新しい学習指導要領が、2020年度からの小学校に続き、中学、高校と順次適用されていく。「何を学ぶか」「何ができるようになるか」とともに「どのように学ぶか」という指針が示され、「アクティブ・ラーニング」がポイントになっている。文科省は「主体的・対話的で深い学び」と改題している。ここでは微妙に二人の考えは異なっている。「一定の知識があってこそ有意義な議論になるわけですけれど、そこのところを正確に理解していないと、仕組みが空回りする危険性もあるでしょう」と池上さんが指摘。伝統的な座学に限界があるという佐藤さんは、「まず走り出してみるということではないでしょうか」と肯定的だ。
実際に同志社大学神学部でアクティブ・ラーニングを授業の一部に取り入れている佐藤さんの話を聞くと、教師も学生も相当な準備がいることがわかる。「誤解を恐れずに言えば、アクティブ・ラーニングは、基本的にエリート教育だと思うのです」という佐藤さんは、アクティブ・ラーニングがまた新しい「落ちこぼれ」を生む可能性も見ている。
佐藤さんはあとがきで、自分の関心が内政や外交から教育にシフトしていると書いている。「日本が危機的状況から脱出するために、偏差値競争から抜け出して、真に知識を得て、活用するような教育を定着させることが、少し時間はかかるが、着実かつ効果的な方法と考えているからである」とその理由を明かしている。確かに佐藤さんの近著には『未来のエリートのための最強の学び方』(集英社インターナショナル 発行、集英社 発売)、『埼玉県立浦和高校』(講談社現代新書)など教育についての本が多いのもうなずける。
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