「貧困の連鎖を断ち切るために」という副題が付いている。本書『その子の「普通」は普通じゃない』(ポプラ社)は、自らも不遇な子ども時代を送った著者の富井真紀さんが、同じような境遇の子どもたちに手を差し伸べている活動報告だ。
「反貧困ネットワーク」の活動で知られる湯浅誠さんが、「貧困の連鎖は断ち切れると実証している人生が、ここにある。希望をありがとう」とメッセージを寄せている。
富井さんは36歳。中卒、3児の母。宮崎県で「読書・勉強Café『very slow』」、「プレミアム親子食堂」、「青少年一時避難ルーム『ひなた~HINATA~』」、「宮崎こども商店」、「高卒認定取得学習支援『ワンズ・オウン・セルフ』」「貸衣装支援『リトルセレブ』」などの活動をしている。財源は、児童虐待防止支援アドバイザーや、貧困専門支援員養成講座などの自社発行通信講座の販売から得られた利益と、企業や一般からの寄付でまかなっている。富井さんは、生活困窮世帯の子どもや、ひとり親世帯に対する支援活動などを運営する会社も経営している。ちなみに夫は46歳、中卒、バツ2。
「読書・勉強Café『very slow』」では数人のボランティアが交代で子どもの相手をしている。学校帰りに寄り道して宿題をしたり、本を読んだりしたりするところだ。おやつも出る。やってくる子どもの親は、たいがいシングルマザー。
「プレミアム親子食堂」は市内の6つの飲食店に協力してもらっている。利用登録し、チケットをもらえると、月一回、その店で食事ができる。毎月20~30人が利用している。
「宮崎こども商店」は集まってきた支援物資を配る活動だ。配布先は約30世帯。白米、パック入りジュース、缶詰、レトルト食品、おむつ、粉ミルク、学用品、中古のピアニカなど。
富井さんの母は、生後半年の時に失踪。父はパチンコ狂いで借金漬け。祖母がわずかな年金と祖父の恩給で富井さんと4歳違いの姉を育てた。料金未払いで電気やガスを止められたこともあった。おもちゃやゲーム機を買ってもらえない富井さんにとって、唯一の避難場所は図書館だった。本だけは読んでいた。
しかし、結局、中学2年ごろから友達とつるんで不良の道に。中卒後はうどん店で働き始めたが、バイト代を父に盗まれるなどして家出。橋の下で寝ていたこともある。裏社会の絶望的な生活にどっぷり浸かってきた。
その後のことは、さらに本書を読んでもらうとして、親戚の仲介で18歳のころ、はじめて自分を産んだ母と会った。すでに「母」には息子が3人もいた。富井さん姉妹に「苦労させて、ごめん」の言葉はひとこともなかったというから驚く。さらに、あろうことか、金を無心されたという。父は娘のバイト代を盗み、18年ぶりに会った母は「悪かった」の一言もなく、金をせびる――その後、富井さんにはさらに辛いことが起きた。姉が失踪したのだ。誰か別の男のところに走ったらしい。しかも幼子を残して。まさに母の行動が繰り返された。姉の消息はその後、全くわからないという。
タイトルの「その子の『普通』は普通じゃない」は、実体験にもとづいている。不良仲間は、悪さをすることが普通。親が覚醒剤の売人だったりする環境だから、子どもも薬物に手をだす。「読書・勉強Café『very slow』」でも、冷蔵庫のお菓子や飲み物をこっそり持ち帰る子がいる。そうした行為が「普通」という環境で育っている。
「生活困窮世帯育ちで低学歴。どちらかというと支援が必要な側だった私が、よもや支援する側に回るとは。人生何が起こるか分からないものです」
詳しい事情は本書にたっぷりつづられている。子どものころから熱心に本を読んできたということが、どこかで役立っているのかもしれないと思った。富井さんは一昨年、高校卒業資格の試験に合格、今は通信制の大学で学んでいる。これからさらに富井さんは自分の人生を大きく切り開き、社会に役立つ活動を広げていくことだろう。
本欄では関連で、『加害者家族の子どもたちの現状と支援――犯罪に巻き込まれた子どもたちへのアプローチ』(現代人文社)、『精神障がいのある親に育てられた子どもの語り』(明石書店)、『子どもの貧困と食格差』(大月書店)、『新・日本の階級社会』(講談社)、『漂流児童』(潮出版社)、『貧しい人を助ける理由――遠くのあの子とあなたのつながり』(日本評論社)、『チェンジの扉――児童労働に向き合って気づいたこと』(集英社)なども紹介している。
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