今週発売の「週刊現代」(2018年2月10日号)は「新・階級社会」を大々的に特集している。「学歴・結婚・身長・体重・・・富裕層と貧困層でここまで違った!」のキャッチが付いている。
最近出たばかりの本書『新・日本の階級社会』(講談社)と同じようなことを考える人がいるもんだな、やっぱり「新・階級社会」というのは、今の世の中を読み解くキーワードになっているのかと思ったが、どちらも講談社刊。なあんだ、新書の発行に合わせて雑誌でも大々的に特集したといだけのことか、と気がついた。新書と雑誌のタイアップみたいなものだ。
それはともかく、教養的な内容の新書のタイトルを、雑誌でもそのまま引き取って、かなりのページを割いて新聞広告でトップの扱いにするというのは、じっさい、そういうことがある、ということを普通の読者が感じているからだろう。でないと、サラリーマンを中心に「普通の人々」を読者として抱える大衆的な雑誌が特集をするはずがない。このテーマに幅広い読者の関心がある、思い当たることがあるということなのだ。
「階級社会」というのは、おそらくはマルクス主義の考えであり、資本主義社会は資本家階級と労働者階級に分断されている、社会が生産する富は資本家階級が吸い上げ、労働者階級は社会的に貶められ、疎外されているというのが、かつての公式的な理解だった。もちろんこれは19世紀中庸の英国社会を対象とした分析だったはず。それから資本主義も学習を重ね、様々な修正を積み上げて、大衆消費社会などという時代を迎え、日本では「一億総中流」が吹聴される。古典的な資本主義社会の階級格差はどこかに吹っ飛んだような気分が広がっていた。「バブル」などという花見酒もあり、「ほろ酔い」になった人も少なくなかったはずだ。
本書は、さて今の日本はどうなっているのかということを多数の統計的なデータをもとに分析した研究書である。著者は。早稲田大学人間科学学術院教授で社会学者の橋本健二さん。2011年には『階級都市―格差が街を侵食する』 (ちくま新書)を出しており、長年、「階級」にこだわってきた人のようだ。
橋本さんは、近年の日本の階級を4つに分類する。資本家、労働者、旧中間階級(自営業者や自営農民)、新中間階級(労働者を管理する層)。さらに最近、5つ目の階級の登場を指摘する。それは非正規労働者から成る、既存の階級以下の階層「アンダークラス」だ。まるで、どこかの国のアンタッチャブルみたいなネーミングだが、いまやその実数は900万人を超え、男性は人口の3割が貧困から家庭を持つことができず、またひとり親世帯(約9割が母子世帯)の貧困率は50%に達している。日本にはすでに、膨大なアンダークラスという貧困層が形成されている、もはや格差ではなく階級差というわけだ。
この層は「いじめ」「登校拒否」などで学校を中退し、正規雇用にありつけず、当然ながら子どもも貧困から抜け出しにくい。上位の階級の人たちはこの層の人たちを「努力不足」「自己責任」とみる傾向が強い。
もっとも周囲を見回してみると、親が有名大学を出て上位クラスなのに、いろいろうまくいってない人は少なくない。今はまだ親のスネをかじり、遺産をあてにできるとしても、将来が心配だ。上位クラスからの転落者、アンダークラスの予備軍はかなり潜在しているといえるだろう。
著者は日本で急速に進行する社会構造の変化を、基本的に統計数字の分析からアプローチする。したがって本書には多数のグラフや表が登場する。おそらく50以上あるのではないか。新書によくあるような、隠れた現場のびっくりするような具体的な実例から迫る、という手法ではない。数字の比較にもとづいた分析が続くので、必ずしも読みやすくはないが、学者の研究とはこういうものだ、ということを教えられる。
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