読むべき本、見逃していない?

ハワイのかなたに「神武」「仁徳」などの海底火山があるワケ

太平洋

 日本海は「謎だらけの海」だった、という新鮮な切り口で理系の啓蒙書としては異例のベストセラーになった『日本海』(講談社ブルーバックス)の姉妹編『太平洋』(同)が出た。著者の海洋科学者、蒲生俊敬さん(東京大学名誉教授)は、閉鎖的な日本海を「風呂桶」にたとえたが、太平洋はさしずめ「25メートルプール」だという。日本海に比べて面積は160倍、体積は400倍、まさに地球の海そのものだ。スケールの大きな地球の胎動が本から伝わってきた。

 今年(2018年)5月にハワイ島のキラウエア火山で大規模な噴火が起きて住民が避難、あらためてハワイが火山島であることを印象づけた。蒲生さんによるとハワイは超ど級の火山島だという。最も高いマウナケア山は海抜4205メートルだが、水深約5000メートルの深海からそびえ立っていることを考えれば、高さは9000メートルを超え、エベレストをしのぐ高さだ。

 ハワイ島のほぼ真下に地球のマントル深部に由来するマグマの供給源(ホットスポット)があり、約30キロのところに海面まであと1000メートルに迫る、最も新しい「ロイヒ海山」があるそうだ。熱水のヘリウム同位体の観測の結果、マントルの非常に深いところとつながっていることが分かったという。1985年、蒲生さんも乗った東大の研究船「白鳳丸」(初代)の調査の様子などが、30年以上前と思えない臨場感で描かれている。

 ロイヒ海山の深海底には鉄バクテリアがびっしり堆積し、蒲生さんは「ロイヒの鉄が太平洋の生命活動を支えている」と指摘する。

古代の天皇の名がついた海山群

 ロイヒ海山を起点にハワイ諸島は西に向かって直線状に並んでいるが、北緯30度、東経170度で向きが変わり、その先に「天皇海山群」というたくさんの海山が並んでいるという。日本列島の真東の深海底に2000キロにわたって並ぶ海山群になぜ、神武海山、仁徳海山など日本の天皇の名前がついた国際名がつけられたのか。蒲生さんは太平洋戦争開戦直後の1942年、日本の測量船「陽光丸」の偉業を紹介する。戦場となる可能性もある北太平洋の地形の観測を極秘で命令され、米軍に撃沈される可能性の中、任務を遂行した。その地形データは戦後、海上保安庁水路部に引き継がれ、アメリカの海洋地質学者、ロバート・ディーツ博士によって解析され、たくさんの海山が林立することが分かった。この時、博士は日本に敬意を表し、古代の天皇の名前を付けたのでは、というエピソードを紹介している。

 この発見はやがて博士の大洋底拡大説につながり、地球のプレートが移動するという「プレートテクトノニクス理論」へ結実する。

 ここでは本書のほんの一端に触れたが、海底火山や深海底の調査・研究に研究者が命がけで取り組んでいることが通読して理解できた。実際、1952年9月には、八丈島と鳥島の中間の明神礁という海底火山の調査にあたっていた第五海洋丸が噴火の直撃を受け、31人が亡くなるという悲劇があった。

 最後に著者は、1万メートルより深い海溝の底で採取したヨコエビの体内から人工汚染物質が検出されたというホットなニュースを紹介し、マイクロプラスチックによる海洋汚染に警鐘を鳴らしている。

 太平洋は広くて深いからと安心していると、食物連鎖によるとんでもない結末が生じるかもしれない。   

  • 書名 太平洋
  • サブタイトルその深層で起こっていること
  • 監修・編集・著者名蒲生俊敬 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2018年8月20日
  • 定価本体1000円+税
  • 判型・ページ数新書判・270ページ
  • ISBN9784065128701

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