30代後半の男が毎日職場での不満を日記に書き連ねていたら、どうだろう? あなたは友達になりたいですか? 「世界の中心で、愛をさけぶ」など行定勲監督の映画に脚本家として多く参加している伊藤ちひろの初の小説『ひとりぼっちじゃない』(株式会社KADOKAWA)は、少しコミュニケーション障害の気配がある独身の歯科医ススメ君の約9か月間の日記の体裁をとった作品である。
正直言って読みすすむのに少し往生した。細かいことにこだわり思い悩む中年男のぐじぐじとした感情が約500ページ、みっちり綴られているのだ。本人も「いつからか僕の日記帳は、下水池となった。怒り、憎しみ、不満、不安、どうしてもそんな負の感情ばかり書くことになる」と自覚しているのに、やめられない。
彼のターゲットになったのは、10代の歯科助手の川西さんだ。ススメに何かとつっかかってくるギャルで、患者や医院のスタッフにはちやほやされているのが気に食わない。ススメは思い切って本人に嫌いなことを打ち明けようと悩む。
自分がやめるか川西さんがやめるかと煮詰まるが、彼女を食事に誘い、ICレコーダーで会話を記録する。いささか妄想も混じった日記の地の文が延々と続いてきた後、会話のくだりが続く。沈黙の混じったやりとりにススメの風貌が浮かんでくる。こんな奴いるんだよね。
友情らしきものが芽生えた2人だったが、川西さんは突然、結婚を理由に退職する。その後、アロマオイルを扱う店に勤める宮子さんと出会い、思わず深入りしてしまうが、彼女には大きな秘密があった。とにかく医院のスタッフや知り合った女性との関係にうだうだと悩み、ああだこうだと分析し、文章を書く主人公には辟易する。もう少ししっかりしろと。そんな読者の声が通じたのか、最後にススメは大きな決断をする。このラストには感動せざるを得ない。
映画などの美術スタッフのかたわら脚本を書いてきた著者は、本来は小説家志望だったという。そんな著者が10年がかりで執筆してきた作品だというから、中身は濃すぎるくらいだ。ひとつの歯科医院にこんなドラマがあったのかと驚く。
中高生のころ、日記を書いたことのある男性なら、後で読み返して赤面した経験はあるだろう。そんな男性心理の裏の裏まで書き尽くした、女性の著者には拍手を贈りたい。はまってしまうとちょっと抜けられない世界だ。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?