62人の大金持ちが、世界の富の半分をもっているとか、いやそれはたった8人だとか、途方もないニュースが流れる。一方では戦乱の地やアフリカなどで餓死寸前の子供たちが多数いるということも。
本書『貧しい人を助ける理由――遠くのあの子とあなたのつながり』(日本評論社)はマンチェスター大学グローバル問題研究所の所長を務め、英国開発学会の会長職も務めていたデイビッド・ヒューム氏の著書を翻訳したものだ。日本版には「日本人さえ豊かであればそれでいいのか」という帯が付いている。
豊かな国が、貧しい国や国民を手助けすべきだという考え方は昔からある。しかし、豊かな国もしばしば戦争で負けたり、自然災害に襲われたりで、貧しい国に手を差し伸べるゆとりがないことがあった。しかし、今は違う。先進国では、膨大な食料が、食べきれずに捨てられる一方で、貧しい国の飢餓はとどまらない。少数の大金持ちのもとに富が偏在・集中するという傾向は、IT長者やネット長者の誕生で、帝国主義の時代よりも強まっているようにも見える。
しかも、アメリカではトランプ大統領が自国ファーストを打ちだし、英国はEUから離脱して自国圏に閉じこもる。難民や移民への反感と規制は一段と強まり、どの国も「我が身かわいさ」が加速している。
加えて、先進国の内部でも、富の偏在は露骨になっている。アメリカでもイギリスでも日本でも、トップ1%が全体の所得に占める比率はこの四半世紀でじわじわ上昇している。金持ちはさらに金持ちに、という流れが統計的にも明確だ。
そうした現状を踏まえつつ、著者のヒューム氏は、「貧しい人を助けなければならない理由」をつづる。いくつかの論点を提示するが、中でも重視するのは「気候温暖化」によるドラスティックな変化だ。それは第一義的に「貧しい国」での農業生産などを崩壊させかねないが、その結果、ドミノ式に各方面に影響が広がる。海水面の上昇で水没する地域からは大量の難民が発生し、全世界的に混乱が広がる。こうした負の影響を回避するために、世界の金持ち国や富裕層は何をなすべきかをを説く。
最近リバイバルでベストセラーになっている『君たちはどう生きるか』の中で、「粉ミルクの秘密」という話がある。主人公のコペル君は、オーストラリアの牛の乳からミルクが生まれ、それが日本の赤ん坊の口に粉ミルクとして届くまでに何千人の手を通っているか考える。
それとおなじように、地球上では、つながっているという自覚がなくても、いろいろな国と実はつながっている。そうした想像力をどこまで豊かにできるか。米国の社会心理学者ポール・ブルーム氏は近著『反共感論』で、いわゆる共感というものがしばしば限定された範囲にとどまり、その外側に広がらない危険性を指摘した。本書は切り口が異なるものの、共感の範囲を広げるべきだという意味において、言わんとするところが重なっているように思えた。
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