本書『白い衝動』(講談社)は昨年(2017年)1月に刊行され、佐藤究さんの 『Ank:a mirroring ape』とともに第20回大藪春彦賞をこのたび(18年1月)受賞した。著者の呉勝浩さんは『道徳の時間』で15年に第61回江戸川乱歩賞を受賞しており、ミステリー作家として着実にステップアップしている。
主人公の奥貫千早は、小中高一貫校でスクールカウンセラーとして働いている。相談に訪れた高校1年の生徒・野津秋成は「ぼくは人を殺してみたい。できるなら、殺すべき人間を殺したい」と殺人衝動を打ち明ける。どう対応したらいいか悩む千早。
そんな折、千早の住む町に、連続一家監禁事件を起こした入壱要が暮らしていることがわかる。入壱は、複数の女子高生を強姦のうえ執拗に暴行。それでも死に至らなかったことで、懲役15年の刑となり刑期を終えていた。住民からは入壱を町から追い出そうという動きが起こる。千早と入壱には人に言えない接点があった。学園祭で起きた事件をきっかけに入壱への排斥運動はピークに達する。野津と入壱、二人は事件にかかわっているのか。絶対の悪は存在するのか。
『道徳の時間』でも追求した、過去の犯罪と人はどう向き合うかというテーマがさらに深掘りされている。ヒロインが臨床心理士という設定なので、刑事物とはまったく異なるアプローチで真相に迫る。
読んでいるうちに神戸連続児童殺傷事件や附属池田小事件を思い出した。殺人への衝動って本当にあるのか?
本書は吉川英治文学新人賞の候補でもあったが、そちらは佐藤究さんの『Ank:a mirroring ape』に決まり、著者はブログで悔しさを表明している。大阪芸術大学で映像を専攻した著者だけに、会話もテンポよく、どの場面も映像が浮かんでくる。いつか著者による映画化を望みたいと言ったら言い過ぎだろうか。
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