本書の題『Ank:a mirroring ape』(すべて横文字)に尻込みして手に取ることのなかった人も多いに違いない。実際評者もそうだった。2018年1月に第20回大藪春彦賞を受賞したのを機会に読み、ぶっ飛んだ。『野獣死すべし』で鮮烈にデビューし、とにかく死者の多い作品を生涯書き続けた大藪春彦の名にふさわしい作品である。
2026年、多数の死者を出した京都暴動(キョート・ライオット)。その場にいた人たちは互いに殺戮を続け、ネットでは「ゾンビ」の仕業ではと世界から恐れられた。原因はウィルス、病原菌ではない。またテロ攻撃でもない。発端はたった一頭の類人猿(エイプ)、東アフリカからきた「アンク(鏡)」という名のチンパンジーだった。
京都郊外の亀岡に創設された霊長類研究施設「京都ムーンウォッチャーズ・プロジェクト」から脱走した「アンク」が移動する地点で暴動は起きていた。センター長の研究者・鈴木望がそのことに気が付き、災厄を引き起こした「アンク」がなぜ元凶なのかを探りながら事態の収拾にたった一人で立ち向かう。
鏡がそのキーワードだった。鏡に映った自分の像の意味を理解し対応できるのは、人類とチンパンジーなど大型猿人類のみである。ほかの猿はまったく理解できないのだ。大藪賞受賞のエンターテインメントと紹介したが、実は人類の進化の歴史をひもとく高度な知的好奇心と理解が求められる作品である。
その一方、死の街と化した京都を鈴木と協力者の少年シャガが「アンク」を追跡するシーンの疾走感は爽快そのものだ。謝辞で分かったが、実際に壁や地形を活かし市街地を自由に移動する「パルクール」という方法(スポーツのようだがスポーツでも競技でもない)のチームが著者の取材に応じたという。大藪作品の主人公は自動車で移動したが、本書では最後は人力が武器となる。
著者は、前著『QJKJQ』で江戸川乱歩賞を受賞した。本作でさらにエンターテインメントの領域を拡大したように思える。もっと早く紹介すべき作品だったと自戒する。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?