『下町ロケット』(2015年)『陸王』(17年)と池井戸潤さん原作のテレビドラマシリーズが、このところ絶好調だ。大企業の横暴に屈することなく、小さな会社で誠実に生きる人々を描くヒューマンなストーリーが支持を得ているのだろう。その原型と言えるのが06年に発表された本書『空飛ぶタイヤ』(講談社文庫)だ。
走行中のトレーラーのタイヤが外れて歩行者の母子を直撃した。メーカーのホープ自動車は「運送会社の整備不良」と結論づけた。それに納得できない運送会社社長の赤松徳郎が真相を突き止めようと奔走するが、次々に妨害され窮地に立たされる。
02年の三菱自動車製大型トラックの脱輪による死傷事故とそれをめぐる裁判、三菱自動車によるリコール隠しなど実際の出来事を下敷きにしており、発表時には「ノンフィクションノベル」と思った読者も少なくない。もちろん完全なフィクションだが、今読むと著者の想像力が現実を先取りしているところもある。
たとえば小説では、ホープ自動車は自動車メーカー首位のセントレア自動車(トヨタ自動車がモデルか)に救済合併されるが、モデルとされた三菱自動車はその後、16年に燃費の不正問題が発覚して経営環境が悪化し、日産=ルノーアライアンスの一員となった。つまり大企業の隠ぺい体質と業界の合従連衡、吸収救済は、以前も今も変わらないのだ。
自動車メーカーは地上波テレビ局の大スポンサーであるため、本書のテレビ化は困難と思われたが、09年にWOWOWが仲村トオル主演で5話の連続ドラマとして放送した。有料の衛星放送なので、スポンサーの思惑にあまり影響されずに制作できるからだ。そして今年(18年)6月、長瀬智也主演、ディーン・フジオカ、高橋一生らが出演した映画が公開される。意外なことだが、池井戸作品の映画化は初めてとなる。冒頭の2作品や『花咲舞は黙ってない』シリーズのドラマ化が成功した影響もあるだろう。
大企業の保身の論理をつく池井戸さんの作品の中でも『空飛ぶタイヤ』の鋭さは群を抜いている。だから映画化されても地上波での放送は難しいだろう。時間を経ても、その生々しさは消えないからだ。
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