本書は、かつてTBS系列で放送され話題となったドラマの原作。埼玉・行田で100年以上にわたって続く足袋製造会社が、先細りを懸念して挑戦する新規事業をめぐっての七転八倒を描く。"一難去ってまた一難"の展開が続き、ハラハラドキドキさせられるのだが、そのたびに、これまでの池井戸作品に準じた期待通りの成り行きにはまり、それを確認するために先を急ぎたくなってくる。
企業小説であり、冒険小説の味わいもあり、さらには、スポーツをテーマにした読み物としての楽しみ方もあるかもしれない。足袋製造会社が参入を目指したのはランニングシューズの市場であり、そのシェアなどに大きな影響力を持つ陸上競技・長距離界が物語のサブの舞台になっている。
足袋といえば和装に特化されたもの思いがち。すぐには靴代わりの着用や運動での使用は考えにくい。だが、とび職人や屋根職人の足元を固める地下足袋があり、夏祭りの神輿の担ぎ手は白足袋でフットワークを演出している。1970年代ごろまでは「運動足袋」「スポーツ足袋」などと呼ばれる製品があり、足自慢の子どもたちが運動会の「徒競走」で履いて走ったものだ。だから実は、足袋から派生して成長見込めるものとして靴関連の事業を考えるのは自然の成り行きだった。
物語の舞台の足袋会社「こはぜ屋」にはかつて、地下足袋をベースした「マラソン足袋」があったのだが、先代の時代に"廃番"になっていた。製品名は「陸王」。社内の長老的存在、経理担当常務からその存在を明かす。同じ名前を冠したランニングシューズの開発に着手して物語は始まる。
布やゴム底で作られている旧「陸王」では、現代のシューズ市場では見向きもされない。新「陸王」づくりは、ソールやアッパーなどで、これまでにない画期的な素材を見つけ出す必要がある。それらにたどりつくまでに、融資元の銀行、スポーツ用具店、ベンチャーキャピタル、実業家らが代わる代わる登場し、それぞれの思惑が絡んだドラマが展開される。
製品の機能性や知名度を上げるためには、一流ランナーに使ってもらうことが必要なのだが容易に実現できるわけもなく、業界の慣行のスキを狙ってアプローチを試みる。たまたま成功しても、資本にモノをいわせた大手業者の執拗な妨害に遭う。さあ、どうする「陸王」...。
物語がある程度まで進み登場人物が出そろうと、予想外の解決策が登場しながらも、これはああなって、あれはこうなるだろうなどと想像していた成り行きにほぼはまり満足感がジワリ。期待通りに(?)大手業者への"天誅"もあるのだが、悪役の大手業者のコンビの様子がコントのようで"勧善懲悪"的には物足りないかもしれない。
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