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知らないうちにお世話になっていました

時代を創った編集者101

 直木賞作家の原尞さんが14年ぶりに新作を出したという。その間、編集者はずっと待ち続けたに違いない。胃に穴が開いたかもしれない。

 本書『時代を創った編集者101人』(新書館)は歴史に名を残した名編集者の列伝だ。古くは明治の黒岩涙香から昭和後期の名うての編集者まで、有名人が並ぶ。それぞれについて事情通が見開き2ページで執筆している。出版界や編集者を目指す人にとっては必読書と言える。このうちの何人の名を知っているかでインテリ度が問われそうだ。

水上勉さんも4回の書き直し

 編集しているのは寺田博さん。文芸誌「文藝」「海燕」などの辣腕編集長として知られた。中上健次、島田雅彦、吉本ばなな、小川洋子らを発掘するなど、新人作家の育ての親として有名だ。本書では文芸編集者の先輩、坂本一亀さんと小島喜久江さんについて書いている。

 坂本さんとは坂本龍一さんの父親としても知られる。1947年に河出書房に入社し、ドストエフスキイ全集、スタンダール全集、現代日本小説体系の編集と並行しながら、多数の作品を世に出した。椎名燐三『永遠なる序章』、三島由紀夫『仮面の告白』、野間宏『真空地帯』などの書き下ろし、その後は小田実『何でも見ておこう』、さらに59年から配本が始まった『グリーン版世界文学全集』、高橋和巳『憂鬱なる党派』なども。

 寺田さんは61年の河出に入ったので、坂本さんの後輩。ちょうどそのころ坂本さんは雑誌「文藝」の復刊準備中で、著者の間を東奔西走、帰社すると生原稿やゲラを集中して読み続けていた。傍からは声を掛けにくい雰囲気だったという。純文学だけでなく推理小説にも手を広げ、水上勉さんは直木賞候補になった『霧と影』を、坂本さんの熱意に応えて4回書き直したという。

索引も充実

 元新潮社の小島喜久江さんは、寺田さんによって、「真の生涯一編集者」と紹介されている。壇一雄『火宅の人』、島尾敏雄『死の棘』、三島由紀夫『豊饒の海』などを担当した。遅筆で寡作の作家から原稿を取り立てる能力にかけては、同時代の編集者の中でも際立っていたという。その小島さんは本書で、「佐藤義亮」「斎藤十一」「野平健一」ら新潮社の人々について執筆している。

 徳富蘇峰は渡部昇一、嶋中雄作は粕谷一希、大宅壮一は大宅映子など、本書では編集者と執筆者の組み合わせも面白い。平塚らいてう、江戸川乱歩、横溝正史、小林秀雄、淀川長治、中原淳一らなど作家や評論家としての方が著名な人物についても、改めて編集者の側面から取り上げられている。文芸関係の編集者だけでなく、吉野源三郎など学芸関係の編集者も取り上げられている。

 巻末には編集者の人名索引、出版社・雑誌・全集・シリーズ名などの事項索引、50人を超える執筆者の索引、さらに出版社と雑誌の創業索引も付いており、本書編集者の苦労のほどが分かる。

 本書は新書館のハンドブック・シリーズの一冊。このシリーズでは「歴代首相」「日本の科学者」「名探偵」「バレエ・ダンサー」「映画監督」など多数の本が出ているが、本書は主役ではなく裏方に光をあてている。しかしながら裏方といっても、パンパではない。それぞれが出版文化に多大な足跡を残している。「黒子」もおれば、すでに現役当時から勇名をとどろかせた「産婆」も。マスコミでは新聞やテレビが主流のイメージが強いが、編集者も時代を創ってきたことを改めて認識させられる。

  • 書名 時代を創った編集者101
  • 監修・編集・著者名寺田博 編
  • 出版社名新書館
  • 出版年月日2003年8月 1日
  • 定価本体1800円+税
  • 判型・ページ数A5判・246ページ
  • ISBN9784403250729
 

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