大学に合格が決まり、新生活にワクワクしている人も多いことだろう。受験参考書や問題集とはお別れして、やりたいことをやる。読みたい本を読む。
大学生協の書店でまず目に留まるのが、おそらく本書『思考の整理学』 (ちくま文庫)だ。東大や京大の生協で長年人気トップのロングセラー。大学に入ったらまず読むべき本としてあまりにも有名だ。
単行本として発売されたのが1983年。その後、86年に文庫化。じわじわと売れてはいたが、2007年、盛岡市さわや書店の松本大介さんによる「もっと若いときに読んでいれば......」という書店店頭のポップで火が付いた。08年には東大・京大生協の書籍販売ランキングで1位に。そこから、「東大・京大で一番読まれた本」という宣伝文句がついて売れ行きに拍車がかかり09年に100万部、16年には200万部突破。18年2月末現在 115刷225万部に達している。
大学に新入生が入ってくるたびに一定の売り上げがあるという、まるで教科書のような文庫本だ。出版社にとってはありがたい。きっかけを作った松本さんはカリスマ書店員として有名になった。書店のポップ効果を知らしめた本として、語り草にもなっている。
書き出し部分の「グライダー論」が、よく知られている。学校の生徒は、教師と教科書に引っ張られて勉強しているだけ。いわばグライダー。優等生はグライダー人間として優秀なのであって、飛行機のように自力で飛べる人は少ない。グライダーにエンジンを搭載するにはどうすればいいのか。それを考えようというのが本書だ。「発想のもとは、個性である」など33編のエッセイで、飛行力を身に着けるためのヒントがつづられている。
要するに他人任せではなく、自力で思考せよというアドバイス。これはリバイバル・ベストセラーとなっている『君たちはどう生きるか』(岩波文庫)でも強調されている。主人公のコペル少年は、「周りの人にどれだけ間違っていると言われても、自分の考えを信じぬける立派な人間に僕もなってみたい」と思う。そして「僕たち人間は自分で自分を決定する力をもっている」と自分に言い聞かせる。
実際のところ、いわゆる難関校では中高生の時代に、「自力思考」の訓練をさせているところが多いようだ。灘中・高は「読書マラソン」で本を大量に読ませるそうだし、最近でも3月4日の朝日新聞に全国で最も難関で知られる筑波大付属駒場中・高校の国語の授業の話が出ていた。「ライティング・ワークショップ」で生徒に小説やエッセイを書かせているそうだ。本書は35年も前の出版。まだワープロの登場前に書かれたものだが、すでにコンピューターについて言及している。「グライダー専業では安心できないのは、コンピューターという飛び抜けて優秀なグライダー能力の持ち主があらわれたからである。自分で翔べない人間はコンピューターに仕事をうばわれる」と予言している。まさに先見の明だ。まもなくAIが跋扈する時代になり、この予言がますます深刻さを増すに違いない。
著者の外山滋比古さん(1923~)は英文学者だが、学究生活に入る前に出版社に入り、「英語青年」の編集長をしていた。本書の文章が非常に読みやすいのは、そうした編集者時代の経験が生きているからだろう。
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