読むべき本、見逃していない?

チョコレートを食べるときに、ちょっと思い出そう

チェンジの扉

 子どもたちが大好きなチョコレート。その原産国では、カカオ採取で児童たちが働かされている。学校にも行かせてもらえない。チョコは現地では高価だから、児童労働の子どもたちは食べたことがない。そんな話をかつて聞いたことがある。

 本書『チェンジの扉――児童労働に向き合って気づいたこと』(集英社)はそうした途上国の児童労働の撤廃を目指し、ガーナやインドで活動する認定NPO法人・ACE(エース)が20年にわたる活動をわかりやすくまとめたものだ。

メキシコで出会った物乞いする子ども

 インドの児童労働者は2011年のインドの国勢調査によると435万人。ガーナでは同国統計局によると、189万人にのぼる。2017年のILO発表では、児童労働を強いられている子どもは世界で1億5200万人もいるという。昔は日本でも小学生の新聞配達とか靴磨きとか花売りなどがいたようだが、さすがに最近は見ない。

 本書を執筆した認定NPO法人ACEは1997年に学生5人で設立され、2005年にNPO法人化、10年に認定NPO法人となる。国連の持続可能な開発目標(SDGs)に明記された「2025年までにすべての形態の児童労働をなくす」ことをめざし、インドのコットン生産地、ガーナのカカオ生産地などで、子どもの教育支援や貧困家庭の自立支援を続けている。企業との協働、消費者への啓発活動、国際社会や政府への政策提言もしている。

 現代表の岩附由香さんは上智大在学中、米国留学の帰りに立ち寄ったメキシコで、物乞いする子どもたちに出会ったことなどがきっかけで、児童労働と教育をテーマに大阪大大学院に進む。友人らとACEを発足させ、国際機関の勤務や通訳をへて07年からACEの活動に専念している。

炎天下のコットン畑で働く

 本書では、ガーナでの活動状況も紹介されている。ACEの発足メンバーの一人で、現在事務局長を務める白木朋子さんによると、ガーナのカカオ農園では、地主が農園の管理をしてくれる人を住み込みで雇っている。どうしても家族総出の仕事になるので、子どもは学校に行けない。そこで、ACEは学用品などを支給し、子どもが勉強もできる環境づくりに努力してきた。「スマイル・ガーナ・プロジェクト」と名づけられた活動で、これまでに454人の子どもを危険な児童労働から救い、約4000人の子どもの教育支援をしてきたという。

 インドの児童労働の状況を報告しているのは坂口志保さん。もともとアパレルメーカーに勤めていたが、売れ残りが捨てられていくことに疑問を感じ、以前から関心があった途上国支援に関わるようになった。インドでは結婚時に女性の持参金制度があり、女の子たちは小学校の高学年になると、自分や姉妹のために、働きに出るケースが多いのだという。炎天下のコットン畑で働いている女の子たちは「頭痛で気持ち悪くなっても休めない」と訴えていた。坂口さんは農薬のせいではないか、と書いている。

 そういえば、BOOKウォッチで紹介した『えっ! そうなの?! 私たちを包み込む化学物質』(コロナ社)に「インドの綿花農場の農薬汚染」の話が出ていた。世界の農地の2.5%に過ぎないインドの綿花地帯で世界の殺虫剤の16%が使われているそうだ。インド綿ときくと、何となく無農薬で手作りだと思っているが、そうではないようだ。

明るく前向きに生きようとする

 本書ではフォトジャーナリストの安田菜津紀さんによる多数の写真が掲載されている。こういうタイトルの本だと、何となく暗く悲惨な写真を想像しがちだが、全体のイメージとして、希望を持って明るく前向きに生きようとする健気な子どもたちの写真が多い。安田さんは1987年生まれとまだ若いが、2012年に『HIVと共に生まれる――ウガンダのエイズ孤児たち』で第8回名取洋之助写真賞を受賞。著書に『君とまた、あの場所へ シリア難民の明日』(新潮社)『それでも、海へ 陸前高田に生きる』(ポプラ社)などがある。テレビの報道番組でもおなじみだ。

 本書のタイトルになっている「チェンジ」は、途上国の子どもたちにとってACEの活動が人生を変えるきっかけになったというだけではない。ACEのメンバーたちにとっても、活動することが自身の人生を変えることにつながっている。事務局長の白木さんは、農業についてもっと学ばなければと、朝活のクラスに出ていて、農業に携わる今の夫と出会ったそうだ。坂口さんは前職のころ、ストレスで睡眠障害になるなど体調不良に悩んだが、今は仕事のモチベーションが上がっているという。

 本書を出版するにあたって、改めて海外取材するのに必要だった経費はクラウドファウンディングで調達した。164人から264万円が集まったという。拠出した一人一人にとっても「小さなチェンジ」があったに違いない。

  • 書名 チェンジの扉
  • サブタイトル児童労働に向き合って気づいたこと
  • 監修・編集・著者名認定NPO法人ACE 著、安田 菜津紀 写真
  • 出版社名集英社
  • 出版年月日2018年8月 3日
  • 定価本体1400円+税
  • 判型・ページ数四六判・128ページ
  • ISBN9784087816648

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