アトピーや花粉症、様々なアレルギーで悩む人が増えている。漠然と、化学物質の多用と関係があるのではないかと考えている人も少なくないだろう。
本書『えっ! そうなの?! 私たちを包み込む化学物質』(コロナ社)は、専門の研究者が身近にあふれる化学物質についての基礎知識をできるだけわかりやすく説明し、上手に付き合う方法を示したものだ。
本書は二人の著者による共著だ。浦野紘平さんは1965年に横浜国立大工学部安全工学科を卒業し、東工大の大学院に進み工学博士。通産省の公害資源研究所や横浜国大教授などを務めた。現在は、横国大発の有限会社環境資源システム総合研究所会長。もう一人の浦野真弥さんは1993年、東京農工大を出て京都大学の大学院で衛生工学を専攻し博士号を取得、大学の研究員を経て、環境資源システム総合研究所社長を務めている。
危険性を過剰に告発するわけでもなく、また安全性をことさら強調するものでもない。記述は冷静で淡々としており、先入観を持たずに読むことができる。アレルギーと化学物質の因果関係については分かっていないと慎重だ。
しかしながら現代社会は、尋常ではない大量の化学物質に囲まれていることを繰り返し指摘する。タイトルにもあるように、私たちはすでに完全に化学物質に「包み込まれている」のだ。合成繊維の洋服を着て、合成皮革の靴をはき、合成化学物質が入った化粧品を使い、合成食品添加物が入った食品を食べ、合成プラスチックを使った家の中で暮らす。「合成化学物質なしでは生活できない」状態になっている。
被害例には事欠かない。家庭用殺虫剤、食品の残留農薬などによる身近な例にとどまらず、ダイオキシン、PCB、フロンなどなど広域、地球規模で汚染が心配されている。この70年ほどの間に人類の数十万年の歴史の中で経験したことがない「化学物質時代」に突入しているだけに、そのプラスとマイナスを熟知して生活する必要があるとする。
本書は丁寧な作りになっている。「化学物質とはなにか,いつごろから急に増えたのか」「身近な化学物質はどんな貢献をしているのか」「化学物質によって被害がでた例」「化学物質を管理するための法律はどうなっているのか」「化学物質管理のこれまでとこれから」の5章にわたって論じられている。易しく書かれているとはいえ、各章をじっくり読んで理解するには、相当の時間が必要だろう。
というわけで、多数のコラムも挿入されている。「70年程度前には合成化学物質はほとんどなかった」「一つの菓子パンにも数多くの食品添加物が入っている」などなど。「原子力発電は本当に安いのか」「水俣病の原因解明と対策を遅らせた大学教授」「専門家の責任」など手厳しいものもある。
コラム「インドの綿花農場の農薬汚染」によると、世界の農地の2.5%に過ぎないインドの綿花工場では世界の殺虫剤の16%が使われている。何となく無農薬で手作りだと思っているが、そうではないようだ。「EUの香料規制と日本の対応の不十分さ」では、EUで規制されたり、成分表示が義務づけられたりしている香料が日本では出回っている。化学物質過敏症の8割以上は香料によって症状が出るという調査も示されているので心配だ。「レジ袋を一枚50円程度以上に」という一文にはハッとする人もいるだろう。一枚3円とかの低価格では効果が不十分というわけだ。
本書の出版元のコロナ社は戦前から理工系の出版物を手掛けている専門出版社。理系の学生や技術者・研究者向けの本で知られる。したがって本書も手堅い内容になっているが、化学物質の功罪を、研究者が一般向けに書いたという意味では貴重だ。幅広い分野が取り上げられているので、各地で化学物質の影響や低減に取り組む人々にとっても参考になりそうだ。
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