世界に誇る日本ブランドの一つに成長した「無印良品」。海外では「MUJI」として広く知られる。本書『無印良品のPDCA』(毎日新聞出版)の著者、松井忠三さんは同ブランドを運営する「良品計画」の前会長。無印ブランドは、かつてのセゾングループで生まれて消費文化に大きなインパクトをもたらしたものの、その後に凋落。松井さんはブランド復活の立役者と知られ、本書で「どん底からV字回復」へと導いた舞台裏を明かしている。
「PDCA」とは、事業を進めるうえでのさまざまな場面で基本となるサイクルを表したもの。PはPlan(計画)、DはDoで「実行」を示し、CはCheck(評価)、AはActionの頭文字で「改善」を意味する。計画を立て実行、そして評価→改善とめぐるサイクルを繰り返すことで開発や管理にあたり、成長を目指すという。本書で著者は、1冊の手帳を常に携帯して管理し、必要に応じて前年の手帳をCheckに応用、統一性や連続性を失わず社内に進化をもたらしたプロセスを説明している。
PDCAサイクルは米統計学者らにより提唱された理論で、近年、日本のビジネス界で取りざたされるようになった。著者によると良品計画では、無印ブランドのV字回復の過程で、そのツールの一つとして知られるようになった店舗マニュアル「MUJIGRAM(ムジグラム)」も、PDCAの要領で更新されているという。
著者が社長に就任するまでの良品計画には、無印ブランドが社会に浸透したことで「これでいい」という慢心があり、セゾングループで存在感を強めたことで非効率に陥る大企業病に侵されていた。そのため、成長をさぐるためのシステムがなく、著者がPDCAサイクル導入に心を砕き「常勝経営」に導いたという。
「無印良品」は、スーパーのチェーンストア「西友」のプライベートブランド(PB)として1980年に最初の製品が誕生。PBはナショナルブランド品より3割ほど安いのがウリで、品質は「それなり」と消費者に認識されたものだが、無印の製品は品質をナショナルブランド並みのまま価格を低く抑えることを徹底し、他社製品との差別化を図った。
当時、西友は西武(セゾン)グループの1社。同グループのオーナーは文化人としても知られる堤清二氏で、その周囲には、サポーターとしてさまざまなクリエーターたちがおり、無印良品は消費文化の方向性を示すような格好で発想されたという。そのコンセプトは「わけあって、安い」。素材を見直し、デザインやパッケージ、生産工程をシンプル化したものだ。
当時のセゾングループの中核、西武百貨店をめぐってこのころ、コピーライターの糸井重里さんがキャッチコピーを相次いで制作。「じぶん、新発見」「不思議、大好き」「おいしい生活」などで、いずれも広告史に残る名作といわれる。
「無印良品」はその後、単独事業化され89年に良品計画が設立される。90年に直営店を同社に移管し、91年には早くも海外進出に乗り出す。著者は同年に西友からの出向し、以後、2015年まで24年間にわたって無印と過ごすことになる。
著者は、良品計画に来て10年目の2001年に社長に就任。このときは実は、それまでの拡大一途から業績が急落する最悪のタイミングだったという。つまり、再生を託された人事だったわけだ。同年2月期に創業以来初の減益に後退、8月の中間期は38億円の赤字に転落する。00年2月には1万7350円だった株価は1年後、2750円に落ち込んでいた。
無印ブランドが消費者からそっぽをむかれ、著者が社長に就任したころまでには、良品計画が属していたセゾングループはバブルが弾け経営破たんし堤氏は代表を辞任。グループは解体されていたが、良品計画には、同氏を頂いてころ慣習になっていた「何をするにも提案書という紙の束をつくる必要」が残っていた。堤氏の要求の水準は常に高く、また堤氏が承認しなければ何事も動きださないため、何をするにも提案書を作成し、承認を得るために紙数が増していたという。
「ところが、皮肉なことにデスクワークを重ね、提案書が分厚くなるほど、現場から乖離した提案内容となり、仮にGOサインが出ても現場ではなかなか実行できない」
「実行できるようなことは書いていないため、現場は白けるだけ。こうしたことが続けば、現場の実行力はどんどん低くなっていく。良品計画の現場も、残念ながら実行力の低い状態だった。紙の多さと実行力は反比例する」
――と、散々な状態。社長に就任してからはまず「実行」をしなければならないと、まず目の前のやるべきことを目標としてD→C→A→Pの順でサイクルを回し始めた。そうして、小さな規模でPDCAサイクルを回してチェックした結果、構造改革に取り組む必要があるという結論を得て、各業界のトップ企業となんとか組めないものかと考えるに至り、その方向にステップを踏み出す。
そして、アパレルのトップブランド企業からはワイシャツのデザインやパターンを、精密機器メーカーからは省コストの商品輸送のノウハウを、大手衣料品チェーンからは値札を合理化することを学び、ものづくりのレベルが格段にアップ。徐々に消費者の信頼を取り戻すことに成功し、国外でも高い評価を得るようにまでなった。
無印ブランドの高い品質の秘密は分かったが、ワイシャツづくりでトップブランド企業が、デザイナーら20人を送り込んで協力しながら、絶対にマネをされない「センス」があることを強調していたことにも感心した。
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