先週6日(2018年5月)から衛星放送WOWOWで始まった同名の連続ドラマですでに目にした人も多いだろう。死刑囚の冤罪をなくすために作られた「裁判官訴追委員会」の下に設けられた「誤判対策室」が舞台だ。もちろん架空の組織だが、裁判をテーマにした重厚なサスペンス小説として読みごたえがある。
「誤った死刑囚を救え!」と結成された3人のチームの顔ぶれは、以下の通りだ。4カ月後に定年を迎える刑事・有馬英治(ドラマでは舘ひろし)、若手弁護士の世良章一(同、古川雄輝)、女性検事・春名美鈴(同、星野真里)。世間やマスコミは画期的な試みだと最初は注目したが、半年たっても成果もなく、今はほとんど見向きもされず、警察や検察からは煙たがられる存在だ。
そんな折、古内博文という56歳の死刑囚にチームは注目する。東京都下で当時32歳の主婦と二人の子どもを殺害後、放火し、現場で泣きながら犯行を自供したという事件だった。ところが最近になって、別の二人の男が小料理屋でこの事件の犯行をほのめかしていたという情報を入手したからだ。
だが、メンバーは調べれば調べるほど古内の犯行を補強するような材料にぶつかり苦悩する。また古内自身、真犯人であることを強硬に主張するのだ。
タイトルに「60」が冠せられているのは、各章のタイトルに「六十(六〇)」が入るからだ。順に「六十年」「六十の壁」「刑事訴訟法第六〇条」「六十兆個の細胞」「六十分」「刑法第六〇条」となっている。
真相はどうなのか? 古内は冤罪なのか? という本筋のストーリーのほかにも、警視庁捜査一課の刑事・有馬が突然、定年間際に警察とは反対の立場の組織に出向させられた事情やあからさまな左遷人事をくらった女性検事・春名の葛藤など人間ドラマが展開する。
本書『60 誤判対策室』は、2015年10月に講談社から刊行された『60 tとfの境界線』を文庫化にあたり改題し、加筆修正したもの。著者の石川智健には、『エウレカの確率』シリーズがある。行動経済学を捜査に応用した経済学捜査員・伏見真守を登場させるユニークな作品群だ。本書は架空の組織が舞台とは言え、再審決定事件などに取材した蓄積が感じられ、絵空事という印象はまったくない。いわゆる刑事物に食傷した人にはおすすめの一冊だ。
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