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「探偵」の実像はベールに包まれている

こんなにおもしろい調査業の仕事

 興信所、探偵社など、さまざまな名称で呼ばれている調査業の業界を分かりやすい事例をあげて紹介――というのが本書『こんなにおもしろい調査業の仕事』の概要だ。

 中央経済社の「こんなにおもしろい」シリーズの一冊。

「調査」と「探査」の違い

 同じシリーズの先行書には「弁護士」「公認会計士」「税理士」「社会保険労務士」などがある。いずれも世間で知られた職種ばかり。なぜこのラインナップの中に「調査業」が入ったのか、ちょっと謎だ。ふだんベールに包まれている業界のことが少しは分かるかと思って、とりあえず読んでみた。

 著者紹介によれば、著者の金澤秀則さんは探偵業界の老舗、児玉総合情報事務所の社長。東京都調査業協会や日本調査業協会の専門委員や理事を務めているという。

 普通の単行本とちょっと違っているのは、冒頭に多数の「推薦文」が並んでいること。「日本調査業協会会長」「東京都調査業協会会長」という業界トップにつづいて、「元国家公安委員長 小野清子」「第12代警察庁長官 山田英雄」の名も。本書が治安当局のお墨付きを得ていることが示されている。

 全体は、序章として「調査会社(探偵社・興信所)の世界」、第1章「探偵とはどんな仕事をするのか」、第2章「調査会社の調査手法」、第3章「『密かに』は探偵業の生命線」、第4章「弁護士・裁判資料としての調査依頼」、第5章「法人からの調査依頼」、第6章「個人からの調査依頼」に分かれている。

 「調査」と「探査」の違いについても書かれている。一般に「調査」は公然情報の収集、「探査」には非公然情報の収集も含まれ、「探偵が行うのは探査」「興信所が行うのは調査」とされている。著者は探偵出身のようなので、それだけ本書のおもしろさが増す。

警察は「民事不介入」

 なるほど、とか、へえー、と思うことがいくつかあった。まず、調査の料金。そう安くはない。改めて考えれば、厄介な仕事をするわけだから仕方がないだろう。尾行なども結構高い。料金表の概略も掲載されているので、頼みたい人には参考になる。

 色々と調査の実例が掲載されているが、金融機関が割と簡単に、個人の口座のことを教えたりするあたりには驚いた。昔は収集に手間取った登記情報などが、今はおそらく有料なのだろうが、ネットで簡単に集められることも。

 警察用語との類似性も興味深かった。調査の対象になる人は「対象者」、尾行などで行動を調べることは「行動確認」。たしか警察でも同じ用語を使うはずだ。刑事の世界と近接しているから、当然かもしれない。

 両者の大きな違いは、刑事は犯罪捜査だが、調査業はあくまで、個人や法人のクライアントの依頼に基づいて調べること。2007年施行の探偵業法によって業務が規定されている。背景には、探偵業者が増え、トラブルも増加したことがあったという。03年段階で業者数は5千を超え、国民生活センターに寄せられた「探偵」「興信所」に関する苦情相談は1357件にのぼっていた。

 マスコミ・報道機関も調査業者と類似行為をするが、探偵業の規制からは除外されている。公益性、公共性にのっとる報道の自由が重視されているからのようだ。昨今の週刊誌やワイドショーでは、どうかと思うようなものも少なくないが。

 良く知られているように、警察は「民事不介入」だから、「民事のゴタ」は相談しても動きが鈍い。いきなり弁護士と言っても、ある程度情報がないと、これまた動けない。調査業は、いわば社会の水面下、グレーゾーンのトラブルを相手にすることが多い。テレビで見るような派手な探偵は実在しておらず、実際の探偵の見かけはたいがい、目立たないサラリーマン、OL、主婦のような人たちだという。

 探偵業務取扱主任者という資格まであることも初めて知った。しかし、「弁護士」「税理士」などと違って、探偵を志す人がどういう経歴なのか、新卒が多いのか、大半が転職者なのか、待遇や、プロとして一人前になるまでのどれくらいかかるのか、などはよくわからなかった。本書を読んでもなお、「探偵」の実像はベールに包まれている。

  • 書名 こんなにおもしろい調査業の仕事
  • 監修・編集・著者名金澤秀則 (著)、児玉総合情報事務所 (監修)
  • 出版社名中央経済社
  • 出版年月日2018年3月28日
  • 定価本体1800円+税
  • 判型・ページ数A5判・192ページ
  • ISBN9784502256417

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