毎日のように様々な事件が報じられている。親が犯罪者だと分かった時、子どもはどうやって生きていくのか。まともな人生が歩めるのか? 本書『加害者家族の子どもたちの現状と支援――犯罪に巻き込まれた子どもたちへのアプローチ』(現代人文社)は長年、加害者家族の支援に取り組んでいるNPO法人World Open Heart理事長、阿部恭子さんが仲間たちと編集した最新刊だ。今回はタイトルのように「子ども」に焦点を絞っている。
親が問題を起こすと子どもは大変だ。社会的な能力が備わっていないから、自分の力だけで対応できない。一般的には、家族全体で助け合ってとか、親戚などにすがってということになるのだろうが、そのあたりの道が閉ざされたり、うまくいかなかったりすると、いよいよどうしていいか分からなくなる。
冒頭、阿部さんが過去10年ほどの間に加害者家族102人から子ども時代の体験を聞き取った結果を紹介している。どうやって親の犯罪を知ったかは「家族から告知」が44人、「家族以外から」が22人、「成人してから告知された」が21人、「自分で調べた」が7人など。犯罪の内容は「詐欺」32人、「殺人」21人、「交通事故」「性犯罪」が各21人など。おそらく事例によって認知経路には相当の差があるに違いない。
事件後の生活変化では「転居・転校を余儀なくされた」が92人、「生活水準が下がった」が55人、「希望していた進学や就職をあきらめた」が44人。事件の影響で「いじめや差別、虐待などの被害に遭った」が61人。犯罪が加害者の子どもにも深刻な影響を与える姿が浮き彫りになっている。下記のような体験に実感がこもる。
「英語の授業で家族紹介しなければいけないことがあり、その日は学校を休んだ」 「お父さんは何やってるのと聞かれるたびにドキドキした」 「なんでパパいないの?と聞かれても答えられなかった」 「学校に行くと、亡くなった人のように机に花瓶が置かれて誰も話しかけなくなった」 「警察官になりたかったが、あきらめた」
本書は「第1部 加害者家族の子どもたちへの支援と現状」「第2部 加害者家族の子どもたちと刑事司法」「第3部 加害者家族の子どもたちへの社会的支援」「第4部 加害者家族の子どもたちへの心理的支援」「第5部 加害者家族の子どもたちのケアと人権」の5部に分かれている。臨床心理士、弁護士など国内の支援団体関係者の報告のほか、米国や韓国の実情も紹介されている。
ちょっと驚いたのは、全米の刑事施設には約230万人が収容されているということ。日本は約5.6万人なので人口比でも比べ物にならない。米国では18歳以下の子ども150万人の親が被収容施設にいるそうだ。子どもへの短期的・長期的影響が懸念されているという。韓国は日本とほぼ同数。子どもの数が5.4万人というから、日本でもほぼ同数の数万人の子どもが、親が犯罪者ということで苦しんでいると考えられる。
本書にはいくつかのコラムも挿入されているが、その中でNPO法人埼玉子どもを虐待から守る会の理事の小宮純一さんが様々な子どものケースについて語っている。小宮さんは埼玉新聞記者として長く活動、教育問題をフォローしてきた人だという。退社後はフリーのジャーナリストのかたわら、漫画雑誌で虐待をテーマにした「ちいさいひと――青葉児童相談所物語」とその続編「新・ちいさいひと――青葉児童相談所物語」を連載中だという。すでに150万部を突破しているそうだ。
冒頭の阿部さんの聞き取り調査によると、親が犯罪加害者だった102人の中で、自分が犯罪に手を染めた人は一人もいなかったという。家出や不登校、自傷行為を起こした子はいるが、いずれも成長とともに落ち着きを取り戻したそうだ。本書を読んでの小さな救いだった。
本欄では『家族という呪い――加害者と暮らし続けるということ』(幻冬舎新書)、『精神障がいのある親に育てられた子どもの語り』(明石書店)、『車イスの私がアメリカで 医療ソーシャルワーカーになった理由』(幻冬舎)、『吃音――伝えられないもどかしさ』(新潮社)なども紹介している。
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