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がんになった友人の人生、佐藤優さんがつづる

友情について

 40年ぶりに再会した高校時代の友人が、ステージ4のがんであると知り、作家の佐藤優さんは「君の人生を本にまとめてみないか」と提案した。そして完成したのが、本書『友情について 僕と豊島昭彦君の44年』(講談社)である。

埼玉県立浦和高校の同級生

 佐藤さんと豊島さんは1975年(昭和50年)、埼玉県立浦和高校に入学、同じクラスになった。高校1年の夏、佐藤さんがソ連・東欧を旅行したときの体験を書いた『十五の夏』(幻冬舎)にも実名で登場する数少ない一人だ。

 昨年(2018年)5月に浦高の同窓生が集まる会合で同席したが、あまり話はできなかった。その後、メールのやりとりをしたが、まだ豊島さんはがんに気付いていなかった。そして10月15日、すい臓がんであることが分かったというメールが届く。

 そして異例の出版プロジェクトが始まる。豊島さんは一橋大学法学部を卒業、日本債券信用銀行に入るが、銀行は破綻、あおぞら銀行となるが、外国人の上司たちに囲まれストレスの多い日々を過ごす。ゆうちょ銀行に転職するが、ここでも悪意のある人事に苦しめられる。誘われて日本公認会計士協会で働くことになった矢先のがんの告知だった。

 「自分がこの世に生きた証を遺したい」と考えていた豊島さんだが、普通のサラリーマンの人生を本にしても、と出版にはためらいがあったが、バブルが弾けた激動の時代の記録として意味がある、と佐藤さんが口説き落とした。

 豊島さんの手記作成と佐藤さんによるインタビューを並行した。余命の中央値は291日、時間は10か月弱、2019年5月下旬を目標とした。

 さて、こうして完成した本書は3部構成となった。第1部は豊島さんの誕生から大学卒業まで。第2部は日本債券信用銀行、あおぞら銀行での体験。外国人上司との摩擦などは個人的体験だが、読者の誰もが遭遇する可能性のある普遍的出来事だと、佐藤さんは意味を見出している。第3部はゆうちょ銀行に転職してから闘病までだ。

 よほどの有名人でもなければ自伝や伝記が書かれることはなかったが、最近は一般の人が「自分史」を出版するケースが増えている。たまたま評者は、何人かの「自分史」の執筆、編集にかかわり、無名の方々の人生の歩みの面白さにひかれた。70代、80代の方が多いので、豊島さんのような50代の普通のサラリーマンの人生のディテールにふれることはあまりない。だから逆に本書にハマった。

 豊島さんは1959年生まれ。小学生の頃、国鉄職員の父親と散歩し、近所の浦高まで行くと、「お前はあの浦高に入って、その後は東大に行くんだ」と言ったそうだ。教育の機会の窓が開かれ、それによる社会的上昇の波にのることが出来た時代、と佐藤さんはふりかえる。

外国人上司に振り回される

 浦高時代の話も面白いが、バブル崩壊後のあおぞら銀行時代の話が興味深い。システム部門にいた豊島さんの上には外国人の上司が着任した。端末をWindowsからMacにかえた。日本人にかわると、すぐにWindowsに戻したという。

 豊島さんが最後に重要なことを8つ挙げている。

 1 こんなもんだと思うこと
 2 仕事以外に自分の生きる目標を作る。好きなこと、やりたいことを見つけること
 3 いい経験をしていると思うこと
 4 人的ネットワークを作ること
 5 目標となる人を作ること
 6 チャレンジ精神をもつこと
 7 自分の座標軸を見失わないこと
 8 一喜一憂しないこと

 豊島さんには3冊の自費出版本のほか、著書『夢のまた夢 小説豊国廟考』(K&Kプレス)があり、もともと文学への関心が高かったようだ。外交官を経て、作家となった佐藤さんとは、どこか通じるものがあったに違いない。

 4月末に二人のトークショーが東京都内の書店で開かれた。二人の伴走が一日でも長く続くことを祈らずにいられない。

 評者の周辺では、治療法のない難病に取りつかれ、激痛と意識混濁に抗いながら自分史に取り組んで校了二日後に67歳で亡くなった元新聞記者、小林伸雄さんの壮絶な人生録『生と死』(5月刊、朝日自分史)も感動を広げている。

 本欄では二人が卒業した浦高について、佐藤さん著の『埼玉県立浦和高校』(講談社)、バブル崩壊後に破たんした金融機関で働いていた男たちのその後を追った『トッカイ-バブルの怪人を追いつめた男たち』(講談社)を紹介済みだ。

  • 書名 友情について
  • サブタイトル僕と豊島昭彦君の44年
  • 監修・編集・著者名佐藤優 著、豊島昭彦 執筆協力
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2019年4月22日
  • 定価本体1600円+税
  • 判型・ページ数四六判・270ページ
  • ISBN9784065151112
 

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