バブルがはじけて、いわゆる住専が破綻。巨額な不良債権を回収する組織が国策で作られた。住宅金融債権管理機構そしてその後身の整理回収機構である。怪しいバブル紳士たちを相手に地道に粘り強く取り立てを続けてきた男たちの奮闘を描いたのが本書『トッカイ-バブルの怪人を追いつめた男たち』(講談社)である。
最初はタイトルを見て、ありがちな「お仕事小説」かと思ったら、そうではなかった。読売新聞社会部記者出身のノンフィクション作家、清武英利さんが書いた実話だ。「誰もが駅のホームで前列には立たなかった。電車が滑り込んでくるまで、足の重心を後ろにかけるのが習慣になった」。闇の紳士たちに闘いを挑んだのは、かつて住専で働いていた男たちであった。
その狙いを本書ではこう説明している。「潰れた住専の人を期限付きで採用して、相手を攻める、不動産業者などからカネを取り立てさせる」。たとえは適切ではないかもしれないが、「毒をもって毒を制す」というような発想かもしれない。こうしたスキームは当時の大蔵省が描いた。将棋の「奪り駒」にたとえた表現も出てくる。
弁護士の中坊公平さんが初代社長になった。回収第一本部の大阪特別回収部(トッカイ)に採用された男たちが主要な登場人物だ。
住専最大手「日本ハウジングローン」から移った者、住専の老舗「日本住宅金融」の一期生で、末野興産に多額融資をしていた者、大手銀行からの出向者、ほかにも大阪府警の所轄署刑事課長から転身し、大阪特別対策部(トクタイ)次長となり、トッカイ社員の守護神を務めた元刑事もいる。本書ではすべて実名で登場する。
対する大口債権者も只者ではない。住宅ローンサービスなどから合計286億円の融資を受けた不動産会社社長の西山正彦は、古都税騒ぎで京都仏教会顧問に就き、古都税を京都市に撤回させた男で、トッカイと20年戦争を闘った。
また住専各社からピーク時には1兆円もの融資を受け、「ナニワの借金王」と言われた末野興産社長の末野謙一は、いまも7600億円の返済を求められているという。
「この仕事は恨まれることはあっても、『ありがとう』とは決して言われない仕事」という思いを抱きながら、トッカイ社員は任務に当たった。
「一生、取り立てる」という中坊氏の遺訓はいまも生きているという。末野興産の債権の時効を停止させるために、訴訟印紙代(申立手数料)だけで1億7千万円もかけて、空前の金額を取り立てている。
過酷な仕事に向き合ったのは「正義感」「自分がやったことの落とし前は自分でつける」という思いがあったからだ、とある登場人物に語らせている。
バブル破綻の記憶は薄れつつあるが、攻防はいまも続いている。この20年間で回収した債権は10兆円を超えるそうだ。清武さんは、「人生で最も不快な体験や家族の暮らしについて、真摯にお答えいただいた」と関係者に謝意を示している。
清武さんは読売巨人軍球団代表などを解任されたことでも知られている。その後、『しんがり 山一證券 最期の12人』や『石つぶて 警視庁二課刑事の残したもの』(講談社)で各種のノンフィクション賞を受賞している。経済事件に強い書き手として、今後ますます活躍するだろう。
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