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同じ記者クラブに「清武英利」がいたら大変だ

書評掲載元:アエラ 2017年8月14-21日合併号

石つぶて 警視庁 二課刑事の残したもの

 とにかく精力的な人である。著者の清武英利氏のことだ。いわゆる「清武の乱」で巨人軍=読売新聞社を辞めた後も、立て続けに本を出している。

 それも古巣の内幕モノだけではない。リストラ、特攻隊、経済事件がらみなど多種多様だ。今回の『石つぶて』は警察が舞台。汚職事件を追う警視庁捜査二課の刑事たちが主人公だ。

登場人物のほぼ全員を実名で書く

 捜査二課とは、警察組織の中で詐欺、横領、背任、選挙違反、汚職事件など知能犯事件を捜査・指揮するセクションだ。殺人事件を扱う捜査一課のように派手ではない。テレビドラマにもなりにくい。刑事たちは表に出ることを良しとせず、いわば黒子のようになって、長い時間をかけて地道な捜査を続ける。

 中でも、政・財・官界の犯罪を扱う警視庁捜査二課は、新聞記者たちが最も苦労する取材相手として知られる。刑事たちは口が堅く、ネタをもらえることはめったにない。

 本書の凄いところは、その警視庁捜査二課の刑事たちを主人公に、登場人物のほぼ全員を実名で書いたところだ。これはフィクションではなく、ノンフィクションなのである。「夜討ち朝駆け」をしてもなかなか口をきいてもらえない人たちに接触し、関係を築いて、過去の事件とはいえ実話を語らせているのだ。

人間の息遣いが聞こえる

 扱っているのは2001年に発覚した外務省機密費流用事件だ。「捜査にあたる刑事たちの人間模様、息詰まる取り調べ、警察上層部との確執など、まさに警察小説のような味わい」(アエラ、17年8月14/21号)。

 記者時代からの「古い付き合い」が生きたという。言うのは簡単だが、並大抵のことではない。それだけ著者に人間力があり、信頼度が高いということだろう。「人間の息遣いが聞こえるヒューマン・ノンフィクション」と版元の講談社は自負する。アマゾンの読者評価でも「星5つ」が並ぶ。

 青森支局、社会部を通してスクープを連発してきたという清武氏。2011年末の「清武の乱」で読売を離れたあと、『巨魁』(12年)、『しんがり 山一證券 最後の12人』(13年)、『「同期の桜」は唄わせない』(13年)、『切り捨てSONY リストラ部屋は何を奪ったか』(15年)、『プライベートバンカー カネ守りと新富裕層』(16年)などすでに約10冊の著作がある。過去のニュースソースと、その後も付き合い、温めていたネタを丹念に掘り起していることがうかがえる。

 ネットで新聞記者と言うと、記者クラブに安住した連中と見られがち。だが、清武氏のようなエネルギッシュな記者が同じ記者クラブにいたら、他社の連中は大変だろうな――ふと、そんなことも考えた。

 

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