読むべき本、見逃していない?

日本の大学生の「低学歴化」が進んでいる

  • 書名 日本社会のしくみ
  • サブタイトル雇用・教育・福祉の歴史社会学
  • 監修・編集・著者名小熊英二 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2019年7月17日
  • 定価本体1300円+税
  • 判型・ページ数新書判・608ページ
  • ISBN9784065154298

 ロングセラーの条件とは、大学の教養課程の授業で「必読書」「参考図書」に挙げられていること--。そんな話を聞いたことがある。毎年、新入生が購入するからだ。その伝で言えば、本書『日本社会のしくみ』(講談社現代新書)はおそらく、ぴったりはまっているのではないだろうか。副題に「雇用・教育・福祉の歴史社会学」とあることからも分かるように、多数の領域を横断するガイダンス的なことをテーマにしている。それぞれに関係する学生数は多いはず。すでに一部の大学では、生協書籍部でベストセラー入りしているようだ

 著者は慶應義塾大学総合政策学部教授の小熊英二さん。大著『〈民主〉と〈愛国〉』『1968』などで知られる。朝日新聞の「論壇時評」も担当した。

経団連は「岩盤」社会

 「序章」でいきなり刺激的な話が引用されている。2018年6月21日の日経新聞。「経団連、この恐るべき同質集団」という見出しが掲げられている。経団連19人の構成を調べた記事だ。それによると、全員が日本人の男性で、最も若くて62歳。起業や転職の経験者ゼロ。「年功序列や終身雇用、生え抜き主義と言った日本の大企業システムの中にどっぷりとつかり、そこで成功してきた人たち」だと記事は分析している。

 さらに出身大学を調べると、会長以下12人が東大、次いで一橋大が3人、京大、横浜国大、慶應大、早稲田大が各1人。京大を除くと、すべてが首都圏の大学の出身者だった。

 本書はこの記事を引き合いに出しながら、卒業した大学名は詳細だが、学部や専攻については何も書かれておらず、「何を学んだかは問題ではないのだ」と記す。そして「なぜこうなるのか。そこには、どういう原理が働いているのか。そうした『日本社会のしくみ』は、いつの時代に、どうやって形成されたのか。それは、他の国のしくみとは、どこがどう違うのか」と問いかける。

 確かにこの記事を見て、愕然とする人は少なくないだろう。この経団連首脳らはおおむね1970年代の大学卒業者だから、そのころの日本社会の価値観がそのまま持ち上がっている感もある。世の中が変わっても、微動だにしない日本社会の中の「岩盤」「アンシャン・レジーム(旧体制)」を象徴しているとも言える。

雇用機会均等法の舞台裏

 そういえばBOOKウォッチで紹介した話を思い出す。『日本の天井――時代を変えた「第一号」の女たち』(株式会社KADOKAWA)に出ていた。1985年の男女雇用機会均等法成立の立役者になる赤松良子・労働省婦人少年局長が当時、事前の根回しで経団連会長の稲山嘉寛氏を訪ねて法案への理解を求めた時の話だ。「女性に参政権など持たせるから歯止めがなくなって、いけませんなあ」と言われたそうだ。もちろん赤松氏は仰天したわけだが、その時点の経団連から、はたしてどれだけ変わったのだろうか。

 本書は以下の各章で、「日本社会のしくみ」を再考する。

 第1章 日本社会の「3つの生き方」
 第2章 日本の働き方、世界の働き方
 第3章 歴史のはたらき
 第4章 「日本型雇用」の起源
 第5章 慣行の形成
 第6章 民主化と「社員の平等」
 第7章 高度成長と「学歴」
 第8章 「一億総中流」から「新たな二重構造」へ
 終章 「社会のしくみ」と「正義」のありか

 当然ながら多くの先行研究をもとにしている。年功序列制と終身雇用、企業別組合が特徴とされる「日本型経営」については、その功罪を含めてさんざん論じられているからだ。著者もそのあたりは認めている。ただし、「官庁の慣行が民間にどう影響したか」などは本書で初めて体系的に指摘した、としている。

現状を憂える声も

 著者得意の膨大な資料やデータを駆使した分析が本誌でも生かされている。中でも「伸びない大学院進学」というのが気になった。日本は大学院、特に博士課程の進学が伸びず、国際比較で言えば「日本の低学歴化」が起きているとも言える、というのが現状らしい。

 実は日本の高校・大学の進学率の伸びは西欧諸国よりも早かった。ところが、それ以上の高学歴化、大学院レベルの高学歴化が起きていない。そのため日本は1980年代までは相対的に高学歴な国だったが、現在では相対的に低学歴の国になりつつあるという。

 日本の企業は新卒採用にあたり、出身大学を重視し続ける。どの部署でも適応できるというポテンシャルを重視しているからだという。したがって大学名の競争になり、修士号や博士号へのインセンティブが働かない。職務の専門能力が評価される欧米とは異なる社会になっているからだという。

 果たしていつまでこういう日本型雇用の「ごまかし」が効くのか。BOOKウォッチで紹介したいくつかの本では、真剣に現状を憂える声があった。

 伊藤忠商事の社長や中国大使などを務めた異色の経済人、丹羽宇一郎氏は『日本をどのような国にするか――地球と世界の大問題』(岩波新書)で中国社会の激しい競争と、海外に出た優秀な人材を中国に呼び戻す「海ガメ作戦」について書いていた。エコノミストの野口悠紀雄氏の『平成はなぜ失敗したのか』(幻冬舎)や森永卓郎氏の『なぜ日本だけが成長できないのか』(角川新書)は、日本経済の国際的なプレゼンスがどんどん低下していることを指摘していた。

 欧米の大学で教える増田直紀氏の『海外で研究者になる――就活と仕事事情』(中公新書)は、アジアの大学ランキングで東大が首位から転げ落ちて久しいことを念頭に、これからは積極的に海外に出て研究することを推奨していた。

 これらも併せて読むと、色々な意味で「日本社会のしくみ」が制度疲労を起こし、下り坂に向かっていることがわかる。「経団連の19人」はそのうまみをたっぷり味わった最後の世代ということになるのかもしれない。

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